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東京地方裁判所 昭和37年(ヨ)2114号 判決 1966年3月29日

申請人 新島常嘉 外七名

被申請人 国光電機株式会社

主文

申請人らの本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

申請人「申請人らが被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。被申請人は、申請人らに対し、それぞれ別表『昭和37年2月分賃金未払額』欄記載の各金員及び昭和三七年三月以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り同表『賃金月額』欄記載の各金員を仮に支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」

被申請人、「主文同旨」

第二、申請理由

一、当事者

被申請人(以下「会社」ともいう。)は昭和一二年設立され、配電函、函開閉器、電磁開閉器、カツトアウトスイツチ、配電盤用電流計等の電気機械器具類の製造販売を業とするものであるが、肩書地にその本社工場を有し、昭和三七年三月当時資本金五、〇〇〇万円従業員二六三名を擁していた。一方会社従業員は、昭和二一年五月一日国光電機労働組合(以下「組合」という。)を結成し、昭和三七年三月当時、従業員中、申請人らを含む、約一八〇名の組合員を有していた。

申請人らの会社に雇われた日、職歴及び組合歴並びに、後記解雇通告当時における賃金とその支払期は別表記載のとおりである。

二、解雇の意思表示

会社は、昭和三七年二月一四日申請人らに対し、

(1)  会社幹部に対して個人的攻撃を加えたこと

(2)  違法不当な争議行為を指導し又は実行したこと

を理由にこれを懲戒解雇する旨通告した。

三、解雇の無効理由

1  労働協約及び就業規則違反

(一) 労働協約違反

組合と会社間で昭和三五年一〇月一日に締結した労働協約一七条は「会社は従業員の雇傭移動賞罰昇格その他の人事に関しては必ず事前に組合の意見を求め尊重してこれを行う。」と定めており、昭和三六年三月一日に締結した「諸規定の改正に関する協定並びに附属了解事項」の七「附帯確認事項」の(一)は「会社は組合員の人事に関しては協約一七条により事前に組合の意見を求め、その意向を充分考慮の上公正妥当を期して民主的に行う。」と規定しているにも拘らず、会社は申請人らの解雇に当り、事前に組合の意見を求めたこともない。従つて本件解雇の意思表示は、協約一七条に違反し無効というべきである。

(二) 就業規則違反

本件解雇の意思表示は次のとおり就業規則に違反するから無効である。

(1) 新就業規則適用の違法

会社が本件解雇の理由として主張する事実は、昭和三六年一一月頃から昭和三七年二月八日までの間に発生したものである。これらの事実に対しては旧就業規則(昭和三三年一一月九日施行)の適用を見るべきものであるのに拘らず、会社は新就業規則(昭和三七年二月九日施行)の懲戒事由にも該当すると主張しているが、新就業規則は旧就業規則に比べ遙かに広範囲の懲戒事由を追加していることから考えても、新就業規則を適用して本件解雇の意思表示をしたことは適用規則を誤つた違法がある。

(2) 懲戒委員会不開催の違法

旧就業規則三八条は「懲戒は充分に調査した上懲戒委員会に諮つて後に決定する。」と定め、同委員会は組合側六名会社側三名で構成しているのであるが、会社は、本件解雇に当り、新就業規則に則つて懲戒委員会の開催を申入れた。組合は旧就業規則によつて上記構成から成る懲戒委員会を開催すべきことを要求したが、会社は新規則による委員会の開催を固執した上、遂に懲戒委員会を開催しないまま本件解雇に出たもので、右解雇は旧就業規則に違反して無効である。

(3) その他の違法

会社は、その主張する個々の解雇理由が具体的に就業規則のどの条項に該当するのか明示せず、且つ恣意的に条文を解釈し適用した違法を犯している。

2  不当労働行為

本件解雇は、申請人らがいずれも組合役員として活溌かつ自主的な組合活動を行つたことを嫌い、申請人らを排除することによつて組合の切崩しと御用化を企図したものであり、又申請人らの正当な組合活動を理由に他の組合員と差別して取扱つたものであるから、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為として無効である。

(一) 組合に対する会社の態度

昭和三六年一一月から昭和三七年二月に至る間組合が行つた争議行為に際し、会社は、専ら組合組織の破壊を企図して種種の攻勢を行つた。すなわち、会社は、(イ)組合が昭和三六年八月二五日労働協約の改訂を申入れたのに対し、右申入に応じないで無協約状態に置くことによりユニオンシヨツプ条項が失効するような外形を作り出して組合員の組合脱退を策した上、一部組合員に脱退を勧告し、脱退者に対しては他所の仮工場で就労せしめ、(ロ)争議の全期間を通じて組合及び組合役員を中傷誹謗し、組合の活動方針を露骨に非難して組合活動及び組合組織に介入し(ハ)争議行為の都度、その時間を大幅に超過するロツクアウトを宣言し、特に、昭和三七年二月一〇日から五月二七日まで三カ月半に及ぶ無期限ロツクアウトを通告し以つて組合員の生活を圧迫して組合からの脱退を図り、(ニ)遂に組合執行委員長始め組合幹部八名を解雇して組合活動の中心を除去し組合の破壊を図つたのである。右行為のうち、会社の組合に対する誹謗並びに組合員に対する脱退策謀の行為の内容は次のとおりである。

(1) 組合誹謗による介入

イ、会社は、右争議行為の直前及び争議行為期間中、後記文書を各組合員に配布して、組合、組合幹部及び組合員並びにその組合活動をいわれなく誹謗した。

(イ) 「国光ジヤーナル」一〇月上旬号掲載、「労働協約改訂に関する交渉過程について」と題して事実を歪曲した文書、

(ロ) 「国光ジヤーナル」一〇月下旬号掲載、組合の協約改訂要求案中「会社は従業員の人事に関しては必ず事前に組合と協議してこれを行う」との条項について(組合はかねて右条項の趣旨について、組合員の労働条件に重大な影響を与えるような場合の人事及び入社三ケ月未満の者のみを対象とするものであることを明らかにしていたのにかかわらず)、「組合が非組合員たる課長部長の人事までも協議することを要求して会社内人事に首を突込むような非常識な協約案、共産主義化するのに役立つような協約案である」旨事実を歪曲した能美一夫総務部長名義の文書

(ハ) 「国光ジヤーナル」一一月上旬号掲載、「昭和三六年の賃上交渉で組合幹部は無知をさらけ出した」「組合幹部はストライキの事は詳しいかも知れないが物を生産する事は弱いようだ」「若い人達は事の重大さを知らないでストライキをスポーツだと思つて楽しんでいることがあるらしい」等と記載した桜井健一社長名義の文書

(ニ) 一一月四日発行の社内速報第四号掲載、「従業員の首を締める者はだれか」と題して、「組合幹部は団結の掛声で従業員を飢餓に追い込もうとしている」等と記載した能美総務部長名義の文書

(ホ) 同月八日発行の社内速報第五号掲載、「争いは避けたい」と題し「組合幹部がストをやろうとしているのはどう云うわけだろう。答は簡単である。それはこのままでは組合幹部の顔が立たないからである」等と記載した同部長名義の文書

(ヘ) 同月二一日発行の社内速報第六号掲載、「組合幹部の知能年令が幼い」等と記載した同部長名義の文書

(ト) 同年一二月一三日付「従業員御家族の皆様え」と題し「組合幹部はもう会社の発展も従業員の生活の安定も考えていようとは思われません」「彼らは従業員の幸福のためにではなく、斗争を地域に拡大し、政治斗争に転化させ長期化させるように仕向けています」等と記載したパンフレツト

ロ、会社社長桜井健一は、社内放送を通じて次のとおり組合幹部を誹謗した。

(イ) 同年一一月二九、三〇日の両日「組合幹部は、手がなくなつてしまつたのでこの寒空に組合員に顔から火が出るような思いをさせるチンドン屋の真似をさせようとしている」等と発言

(ロ) 一二月九日「組合は高い利子で金を借り、政治斗争をしようとしている」等と発言

(2) 組合員に対する組合脱退の策謀

会社は、昭和三七年一月二二日組合に対し従来の労働協約の失効を通告し、これによりユ・シ条項も失効したから組合員の脱退が自由になると宣伝し、次に記すように班長、次長等職制の組合を脱落した組合員を通じてさらに組合員を脱退させる等の方法で組合組織の壊滅を図り、これがため、同年一月下旬頃から脱退者が増加した。

イ、「千山閣」グループの脱退策動

(イ) 桜井社長は、昭和三七年二月二日、組合員浜源吾(組立班々長)、同能登与五郎(同班次長)、同大越錦蔵(配電函班々長)同山田竜助(プレス班々長)同島崎忠夫(型班々長)、同北原米雄(マグネツト班々長)、同吉田静英(設備係長)、同庭野繁広(検査係)ら八名(以下「千山閣グループ」という。)を都内台東区七軒町所在の料理屋「千山閣」に集め、同日午后五時三〇分頃から同九時三〇分頃迄の間酒食を供しつゝ、組合脱退を勧誘して組合活動から脱落せしめ、

(ロ) 上記浜源吾は、職制上の地位を利用し、同月三日午后七時頃組立班所属組合員小早川登代を自宅に訪ねて脱退を勧誘し、又その頃、元部下組合員青木秀雄、鈴木清を勧誘して組合を脱退せしめ、

(ハ) 上記能登与五郎は、同月四日午前一一時一五分頃同班の組合員竹内美代子を訪ね同人に対し組合脱退を勧誘し、

(ニ) 上記大越錦蔵は右同日頃、入社の世話をしたことのある組合員泉水清房、同克己、市川徳治、同俊夫の四名を勧誘して組合を脱退せしめ、

(ホ) 上記山田竜助は、その頃職制上の地位を利用してプレス班の組合員市村勝雄、坪木四郎、市川俊夫、自宅隣に居住する組合員山下元治、塗装班々長井上平次郎をそれぞれ勧誘して組合を脱落せしめ、右井上は引続きその頃娘井上明子を組合から脱落させ、組合員小川豊作に脱退を勧誘し、

(ヘ) 上記島崎忠夫は、二月五日午后一二時半頃生産課長平沼誠と共に型班の組合員平沢賢一郎の帰宅を待ち受けて組合脱退を勧誘し、又同班の組合員大越受四郎、八島芳三郎、金子利勝、平野太三及び鈴木亨を勧誘して組合から脱退させ、

(ト) 上記北原米雄は、その頃同班の組合員森田芳子を勧誘して組合から脱退させた。

ロ、「栄屋」グループの脱退策動

(イ) 会社工場長小林政雄、経理課長加藤栄昇は、昭和三七年一月三一日午前一一時頃組合員福田博に命じ、倉庫班組合員工藤市衛、豊島喜三郎、香取義豊、石川よしえ、会田武七、松尾恵一郎、永森正道、山崎春次、田中甚蔵、市川徳治、岩瀬尚弘以上一二名を会社近くのそば屋「栄屋」に集めて酒食を供し、同日午后四時頃迄の間、組合を誹謗して脱退を勧誘し、翌二月一日岩瀬と松尾を除く一〇名(以下「栄屋グループ」という。)が会社下谷営業所へ赴いたところ、平沼生産課長が就業願及び組合脱退届を同人らに交付してこれに署名させ、同日以降同営業所及び尾竹橋仮工場で同人らを就労させ、

(ロ) 上記工藤市衛は、三月四日午后組合員山本儀雄を自宅に訪ね、「運転手で君一人が組合に残つているが、脱退しないと解雇される。二、三日中に会社の人が来る」旨申向けて組合を脱退させようとし、

(ハ) 上記会田武七は、甥の組合員近藤俊夫を組合から脱退させ、

(ニ) 上記田中甚蔵は、その子田中志郎及び入社の世話をした清水新吾を組合から脱落させ、

(ホ) 上記福田博は妻経子、その友人岩崎輝子を組合から脱退させた。

ハ、その他の脱退勧誘

(イ) 生産課長平沼誠は二月五日午后〇時半頃組合脱落者島崎忠夫と共に平沢賢一郎に対し、

(ロ) 営業課長藤原一久は同月一三日夜台東区清島町所在飲食店「八重」で酒食を供しながら佐藤泰蔵に対し、

(ハ) 同課長は同月二六日頃脱落者鎌田勝をして杉村美喜子に対し、

(ニ) 前記岩崎輝子は三月四日水野美智子方で同人に対しそれぞれ組合脱退を勧誘した。

(二) 申請人らに対する会社の態度

(1) 申請人らの会社における地位及び勤務状態

申請人らの会社における勤務成績はいずれも良好であり、各職場で中堅の役割を果し同僚間の信望をあつめ、会社としても申請人らに期待していたものである。すなわち、

イ、申請人新島常嘉は、機械班プレス工として勤務していたが昭和三五年三月その能力を認められて同班記録係となつて班長を補佐していたもので事実上同班の生産活動の中心的役割を果していた。

ロ、申請人古市幸義は配電函班組立工として勤務し班次長を補佐し、昭和三六年春会社から検査係に推されるなど同職場の中心的役割を果して来た。

ハ、申請人中江勁は、製造部検査係の職にあり、その勤務態度、技術的能力において工場長の信頼が厚かつた。

ニ、申請人石川新助は、計器班電流計組立工として勤務し、昭和三六年一二月一五日、一五年間の勤続によつて表賞され、技能及び対人関係において同職場の指導的地位にあつた。

ホ、申請人木村宏久は右同班電流計組立工として勤務し、昭和三二年一二月マグネツト工程新設の際抜てきされてマグネツト班に移り同班電気器具組立工として、同班の次長格として中心的役割を果していた。

ヘ、申請人森保治は、計器班電流計組立工として勤務し、同班長、次長、係の信頼厚く、中堅的存在であつた。

ト、申請人中村勝美は、配電函班電気器具組立工として勤務し、人の嫌う作業に積極的に取組み、同僚のみならず班長、次長からも信望をあつめ、同職場の中堅的存在であつた。

チ、申請人新島さかえは計器班電流計調整工として勤務し、同班女子従業員の中堅的存在であり、かつ作業熱心で技術的能力に優れていたため、試験班等の応援に指名されることが多く同僚のみならず班長、次長の信頼が厚かつた。

(2) 申請人らの組合活動等

申請人らは、別表記載のとおりの組合歴を有し、いずれも組合の中心的地位にあり、以下述べるとおり組合活動の中心的役割を果して来たものである。

イ、昭和三〇年頃までの労使関係の概要

昭和二一年組合が結成され、当時全日本電機工業労働組合に加盟して積極的に活動していたが、昭和二五年頃以降、自主性を喪失して上部団体から脱退し、会社に対する申入すら「御願」と題して提出するという状態であつた。従つて組合運営は執行部が組合員の要求を反映することなく独自に決定して一方的に押しつけることが多く、従来勤続一年の者に対して一二日間認められていた年次有給休暇が七日に切下げられたり、賃金体系が出来高払い制に一方的に変更されたり、労働協約も昭和二一年に締結したまま内容を検討することなく自動延長を重ね、組合役員も短期間に頻繁に交替していた。又、年二回の定期昇給が昭和二八年以降会社から一方的に停止されたにも拘らず、組合執行部は何らの抗議もしなかつたため、昭和三〇年中組合員から責任追及を受けて総辞職した(昭和三一年九月新執行部により昇給協定が締結された。)。

ロ、昭和三一年以降三五年頃までの労使関係の概要

(イ) 昭和三一年九月、会社は組合新執行部の積極的組合活動を嫌い、組合に対して、職制であるからとの理由により、執行委員長石橋昌明の職場である事務所及び倉庫の組合員一一名を非組合員とすることを要求して来た。組合はこれに反対して会社と交渉したが、副委員長島崎忠夫の背信行為により一〇月九日右要求を受入れるに至つたところ、会社はさらに右石橋執行委員長らの組合除籍に伴う組合役員の改選に当り、会社の事情に通じた年功者を選出すべきだ、と宣伝して組合運営に支配介入し、その結果、会社の意に添う組合執行部が選出された。

(ロ) 右組合執行部は昭和三二年一〇月二一日開催の組合大会で会社の要求である一〇月の定期昇給停止をやむなしとしたので、組合員の反対に遭つて総辞職し、同月二三日、申請人新島常嘉、石川新助、中村勝美らが新役員に選出され、直ちに会社と団体交渉を開いた結果同期定期昇給は実施の運びに至ることが出来た。

なお、右申請人ら組合執行部は、昭和三三年一一月九日締結の労働協約により休日休暇、家族手当、残業手当、退職金率等の増加、公傷者に対する見舞金支給の新設を実現し、昭和三四年四月期定期昇給に当り昇給額の増加等を協定し、同年一〇月九日締結の協約で、尻抜けユニオンを改め、就業時間中の若干の組合活動を認めさせ、停年を延長し、時間外手当を改善し年次有給休暇を一二日間に回復し、家族手当を増額し、その他同年中出来高払い制に伴う報償金制度を廃止して一部を賃金に繰り入れさせる等労働条件の改善に努力し成功した。

(ハ) 昭和三四年一一月組合は電機労連に加盟し、以後その運動方針に沿つて会社との間に労使関係は円滑に処理されていた。

ハ、昭和三六年以降本件争議に至るまでの労使関係

昭和三六年春、組合の賃上げ要求に対し、会社は従来と打つて変つた挑戦的態度をとり、ストライキの通告に対して無期限のロツクアウトを仄かしたり、組合員に対し組合幹部を誹謗する文書を送付して組合組織に不当に介入し、このため春斗は長期化して約二カ月間の斗争の結果四月一八日漸く妥結をみた。このように春斗が長期化した原因は、会社が日経連の労務対策オルグ能美一夫の指導を受けていたためであるが、会社は同年八月同人を労務担当総務部長に迎え、同人の関係筋から麓晃、藤原一久、石川一二をそれぞれ総務部次長、営業課長、企画課員として入社させ、従来の部課長を閑職に配転した。

ニ、今次争議の経緯の概要及び争議行為の正当性

(イ) 組合は、昭和三六年八月二五日会社に対し労働協約の一部改訂を申入れ、九月一四日組合大会において右協約改訂要求につきストライキ権を確立し、さらに一〇月二五日会社に対し年末一時金要求を提出すると共に組合大会で右要求についてもストライキ権を確立した。組合は右大会決定に従つて一一月一六日以降波状的に時限ストライキ、部分ストライキを実施したが、申請人ら組合幹部は組合員に対し終始粗暴又は暴力に亘る行為に出ることなく会社の挑発に対しても自重するよう要請し、組合員もこれに従つた。

(ロ) 争議行為の正当性

(i) 争議目的の正当性

今次争議の目的は、前述のとおり、労働協約の改善要求及び年末一時金要求を実現するにあり、本件各争議行為はその目的において正当である。

右要求をめぐる交渉が難行し争議行為にまで至つたのは、組合の要求が特異又は過大なものであつたためではなく、会社が組合を弱体化し破壊しようと企図したからに外ならない。

なお、能美一夫の取締役選任に反対して同年一一月一七日に行つた争議行為も、右の目的貫徹の手段として同人に代表される会社側の組合抑圧方策に対し反対の意思を明確にするためであつて、他意があるわけではない。

(ii) 争議手段の正当性

(a) 時限ストライキについて

組合は一一月一六日午后三時一〇分から終業時刻の午后四時迄五〇分間の時限ストを行つたのを始めとして時折時限ストを実施したが、その内容は全組合員による抗議、報告、決議のための集会を行つたものにすぎず、上記スト終了後は直ちに就労できる体制をとり、このため生産能率に特段の低下を来たしたことはなかつた。

(b) 指名ストライキについて

一一月二四日の組合員三五名による指名ストライキは、時間外手当不足分についてその明細を要求して行つたものである。

同年一二月六日以降三〇日までの間、組合員全員によるストライキを除き、連日組合員二名によつて行つた指名ストライキは、会社の抜打ち的ロツクアウト通告及び電源の無警告操作による危害発生の虞に抗議する目的で変電室の見張りを行つたものであり、しかもこの間非組合員の変電室立入は自由に許していた。

(c) 部分ストライキ、リレーストライキについて組合は、昭和三七年一月二五日、二月一、二、五、六、七、八、九日に組合員約二〇ないし四〇名により、部分ストないしリレーストを行つたが、右は、一月二二日会社が現行協約の失効を通告すると共に一部組合員に脱退を勧告し、脱落者をしてスト破りを行わせようと企図したため、脱落者の説得を目的として工場に待機させたものである。

以上のとおり、組合の争議行為はいずれの観点からしても正当である。

(3) 以上屡述した申請人らの会社における地位と勤務状態、その組合活動、本件争議行為の正当性に鑑み、会社が申請人らを解雇した決定的理由は、申請人らの努力により組合が自主性を回復したのを嫌い、組合組織を破壊するためにその中心的役割を果していた申請人らを排除するところにあること明らかである。従つて、申請人らの解雇は正当な組合活動を理由とする差別であり、かつ、組合に対する支配介入であるから、不当労働行為として無効である。

3  解雇権の濫用

本件解雇は、次の事由により解雇権の濫用として無効である。

(一) 会社が主張する本件解雇の理由となる事実は、凡て虚構であつて、却つて前述のとおり労働協約、就業規則に違反し不当労働行為に該当し、他に本件解雇を肯定すべき合理的理由は存しない。

(二) のみならず、今次争議の原因は、前述のとおり会社が組合抑圧に急の余り無協約状態を招き、年末一時金に関する場合の妥当な要求を一方的に拒否し、過大かつ攻撃的ロツクアウトを繰返すと共に組合の切崩しを図つたところにある。これに対し、組合は組織防衛のため相当な方法で争議行為に出たものであり、申請人らは、いずれも有能な従業員として信望をあつめていたのであつて、会社が前記の如き組合破壊の意図並びにこれに基づいて執つた違法な措置を顧みることなく、その結果に過ぎない組合の対抗策について、その指導責任を唯一の理由として申請人らを企業から排除しようとすることは、労使間の信義則に反する報復行為である。

四、従前の労働協約の効力の存続

会社は、右労働協約は失効したと主張するけれども、右協約は本件解雇当時も有効に存続する。その理由は次に述べるとおりである。

1  労働協約第五二条但書は、無協約状態の発生を回避することを目的とするもので、新協約の締結を期待しその成立を前提として旧協約を維持しようとする趣旨のものであるから、協約の延長期間について定めるところがないとは云え、少くとも新協約締結のための団体交渉に必要な相当期間内は、解約権が発生しないものと云うべきである。

ところが、会社は、協約の有効期間後、二、三日の後に解約の意思表示をなし、しかも会社の協約改訂申入れは、改訂事項を特定しないまま、それについて団交を求めることにより、協約交渉の実質的拒否を図つたのであるから、会社の協約解約権はまだ発生せず右の解約は無効である。

2  また、会社の協約解約の告知は信義則に反するから無効である。すなわち、会社は、専ら無協約状態を発生させることによつて、ユ・シ条項を失効させもつて組合を切崩すべき意図のもとに右告知をしたものである。

第三、申請理由に対する会社の答弁及び反論

一、申請理由一の事実を認める。

二、同二の事実のうち、その主張年月日に申請人らを解雇する旨の意思表示をしたことは認めるが、その余は争う。

右解雇は懲戒解雇ではなく、申請人らの将来を慮り特に普通解雇にしたものである。

三、同三の主張について

1  労働協約及び就業規則違反の主張について

(一) 労働協約違反の主張について

申請人ら主張の労働協約は、昭和三六年一〇月二三日附でした会社の組合に対する解約告知の時から九〇日を経過した昭和三七年一月二二日に失効したものであるから、その有効に存続することを前提とする申請人の主張は失当である。

すなわち、右協約の有効期間は昭和三六年九月末日であるところ、八月二五日組合から労働協約改訂の申入れがなされ、これに対し九月四日会社も回答すると共に協約改訂の申入れを行い、団体交渉を行つたが組合は会社の回答書に社長公印が捺されていないとか、社長の欠席する団交は無意味であるとか果ては会社側の団交出席者を指定したり、会社が組合案を全面的に是認しない限り団交に応じないなどと難くせをつけ、下交渉の申入れすら再三拒否し九月三〇日の有効期間を徒過した。同協約第五二条には「本協約の有効期間満了一カ月以前に当事者の一方より改訂の意思表示のないときは本協約は自動的に更に一カ年延長されるものとする。但し有効期間中に改訂協約が成立しなかつた場合は成立する日迄有効とする」旨の規定があり、右協約は有効期限が徒過した一〇月一日以降同条但書により期限の定めのないものとして存続することになるので、前記のとおり九〇日前の解約予告を以て失効したものである。

(二) 就業規則違反の主張について

(1) 後記解雇理由たる事実は、当時有効に存在した旧就業規則三七条に規定する懲戒解雇事由に該当し右規定の適用を受けることになるが、新就業規則九六条は右旧規則の定めを承継したものであつて、仮にこれに新就業規則を適用して解雇理由としたとしても、懲戒権が経営に固有の権利であつて就業規則の定めがなくても行使しうることから考えて、何ら本件解雇を違法とする理由にはならない。

(2) 懲戒委員会は会社側三名組合側三名で構成する定め(旧就業規則三八条)であつて申請人の主張する如き構成をとつたことは一度もない。そして、会社は昭和三七年二月九日組合に対し旧就業規則三八条に基づき懲戒委員会の開催を申入れたのに対し、組合は委員会の開催自体に反対してこれを拒否したので同月一三日重ねて同趣旨の申入れをしたところ、組合は始めて委員会の構成につき不服を唱えこれを拒否したのである。

(3) 会社は、申請人らの後記解雇理由たる事実が新就業規則九六条(懲戒解雇事由)九号「その他前号に準ずるような不都合な行為があつたとき」にも該当するものであるから、同規則九四条(出勤停止事由)、第九五条(諭旨退職事由)中各該当条項を挙示したにすぎず、右各条を適用して解雇したわけではない。従つて、申請人主張のように会社が恣意独断により就業規則を解釈適用した事実はない。

2  不当労働行為の主張について

申請人がその冒頭において主張するところは、凡て争う。

(一) (一)の主張について

申請人がその冒頭において主張する事実のうち、組合がその主張の日に会社に対して労働協約の改訂を申入れ、その主張の期間争議行為を行つたこと、会社が、ストライキ時間よりも長時間に亘つてロツクアウトを行い、昭和三七年二月一〇日無期限のロツクアウトを通告して同年五月二七日までこれを継続し、組合を脱退した従業員を会社工場外の他の場所で就労させたことはいずれも認めるが、その余の事実を争う。

(1) 「組合誹謗」の主張について

イ、申請人主張のイ、(イ)ないし(ト)の各文書にその主張のとおりの記事を掲載してこれを従業員又はその家族に配布したことは認めるが、これにより組合活動等を誹謗したとの主張は争う。

(イ) 「国光ジヤーナル」一〇月上旬号は労働協約改訂交渉の経過を事実に即して正確に記載して広報したものである。

(ロ) 同一〇月下旬号の記事は、組合の協約改訂案中人事に関する協議条項が部課長人事を適用外とする旨明示していなかつたために同案の批評をしたものにすぎず、組合幹部を誹謗する等の性質のものではない。

(ハ) 同一一月上旬号の記事の趣旨とするところは、経営の実態について全く理解を示すことなく、取るものは取るという組合の態度を批判し、労使関係のあり方について会社の所信を表明したものであつて、組合を誹謗したものではない。

(ニ) 社内速報四号の記事は、当時組合が組合速報によつて下劣な個人攻撃を加えたり残業協定を拒否し、スト気構えであつた事情を考慮すれば、その時点における会社の意思表明として当然である。

(ホ) 同五号の記事は、会社が無用の争議を避けたいことを明らかにしたにすぎないし、同六号中主張の如き字句も、全文と対比してみれば組合幹部を誹謗するものでないことが明らかである。

(ヘ) 一二月一三日付表題のパンフレツトは、組合が、組合速報により事実を曲げて宣伝するのに対抗して、当時時限ストライキが反復行われている際従業員家族に争議の真相を明らかにすべく会社及び組合の言分をそれぞれ対置して掲載したものであつて、記事中組合に対する若干の批判は支配介入に該る性質のものではない。

ロ、申請人主張のロ、(イ)、(ロ)の各日時に、桜井社長がその主張の如き用語を以て社内放送を行つたことは認めるが、その余の事実は争う。右放送内容は凡て言論の自由の範囲内に属する。

(2) 「組合脱退の策謀」の主張について

申請人が冒頭で主張する事実のうち、会社が労働協約を解約する旨組合に通告し、その頃から組合脱退者が増加したことは認めるが、その余の事実を否認する。

イ 申請人主張のイの事実中、(イ)の桜井社長が主張日時に浜班長らと「千山閣」であつたことは認めるが、それは同班長らが今次争議に関しその態度を表明したいから社長の出席を求めると申入れて来たのに応じたまでのことである。(ロ)ないし(ト)の事実のうち、申請人主張の者らが主張の頃組合を脱退したことは認めるが、浜源吾班長ら申請人主張の者がこれを勧誘したとの点は不知、平沼生産課長が島崎忠夫と共に平沢の帰宅を持ち受けて脱退を勧誘したとの点は否認する。

ロ 同ロの事実については、(イ)の事実のうち、小林工場長、加藤経理課長が主張の日時に「栄屋」で工藤市衛らに会つたこと、主張の日に右工藤ら申請人主張の者が会社に就業願を提出し平沼課長がこれを預つたことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。小林工場長らが工藤ら組合員と会つたのは、同人らが組合脱退の決意を固めた上、会社に対し現状及びその収拾策について説明を求め会見を申入れて来たからであり、同人らが平沼課長に組合脱退届を提出したとの点は虚構の事実である。(ロ)の事実のうち、工藤が主張の頃山本と会つたこと、(ハ)ないし(ホ)の事実のうち、申請人主張の組合員が、いずれもその頃組合を脱退したことは認めるが、その余の事実は知らない。

ハ 同ハの事実中、(イ)、(ハ)の事実は否認する。(ロ)の事実のうち、藤原営業課長が主張の日、「八重」で佐藤泰蔵と会つたことは認める。同課長が佐藤と会つたのは、会社の宿直室へ住込んでいる同人から会社と組合との板挾みになつて困つているとの相談を持ちかけられたからである。(ニ)の事実は知らない。

(二) (二)の主張について

(1) 申請人主張の(1)の事実中、申請人らの会社における職種は認めるが、その余は争う。申請人らの勤務状況は普通であつた。

(2) 「申請人らの組合活動等」の主張について

イ、申請人主張のイの事実のうち、申請人らの組合における地位、その主張のとおり組合が結成され、上部団体に加盟したこと、昭和二五年頃組合が会社に対する要求を「御願書」という方式によつており、その頃年次有給休暇期間が短縮されたこと、昭和二八年以降年二回の定期昇給を停止し、昭和三一年九月会社と組合との間で昇給協定が結ばれたことは、いずれも認めるが、昭和二五年頃の組合の自主性、組合内部の意思決定の具体的方法、会社に対する要求を右のとおり「御願書」方式に改めた経緯は不知、その余の事実は否認する。右年次有給休暇の短縮、定期昇給の停止は会社が不況のため組合と協議して決定したものであり、労働協約についても組合と交渉し検討した上組合の希望に沿う修正を加えてこれを延長して来たものである。

ロ 同ロの事実については、

(イ)の事実のうち、申請人主張の頃会社が石橋執行委員長の所属する職場の組合員を非組合員とすることにつき組合と交渉し、その主張のような合意に達したことは認めるが、その余の事実は否認する。当時会社には事務職員の数が極めて少く、会社の機密事項を保持する必要があつたのでこれらの者を非組合員としたまでである。

(ロ)の事実のうち、昭和三二年一〇月定期昇給が行われたこと、昭和三三年一一月九日及び三四年一〇月九日に締結した各労働協約中の改訂事項が主張のとおりであること、同年四月定期昇給に当つて、定期昇給を年一回に改めたことは、いずれも認めるが、その余の事実は否認する。

(ハ)の事実のうち、その主張日時に、組合が電機労連に加盟したことは認めるが、その余の事実は争う。昭和三三年四月頃までは、労使双方の理解と信頼とによつて会社は業績を挙げることができたが、以後漸次組合の態度に変化を生じ、昭和三四年末頃から三五年夏頃にかけて、会社の立場に耳を藉すことなく組合の要求を固執し、争議なくしては賃上げ等待遇問題が解決されなくなつたのであつて、当時労使関係が円滑に処理されていたとの申請人主張は事実に反する。

ハ、同ハの事実のうち、会社が昭和三六年八月能美一夫を総務部長に任命し、麓、藤原、石川をそれぞれ主張の役職に就任させたことは認めるが、その余の事実は凡て争う。

組合は同年春季賃上げに当つて、一挙に二五%アツプを要求し、その満額獲得を目標に会社の窮境を無視して争議行為を繰り返えし、ために会社は販路の縮少を来たしたが、販売価格の引上げを唯一の資源として、将来の成算もないまま二〇%アツプを受入れざるを得なかつた。当時組合が団体交渉の経緯を事実を曲げて組合員に伝達し又は会社の説明を伝達しないことがあつたため、会社は、実情の正しい理解の資料としてその説明文書を一般従業員宅に送付したまでである。又能美らの就任につき組合は特別の意味を持たせようとするが、従来会社においては、営業部長が総務部長を兼ね労務対策に専念しえなかつたので労務管理に経験豊かな同人を総務部長に迎え、これに伴う人事異動を行つたものにすぎない。

ニ、同ニの事実については、

(イ)の事実中、組合の労働協約改訂及び年末一時金要求の事実は認めるが、その余は争う。

(ロ)の(i)の主張は、凡て争う。前述のとおり、昭和三四年末頃以降、組合は争議なくしては懸案を解決しようとせず、会社は経営の苦境にも拘らずやむなくこれに屈して来たが、労働協約の改訂要求に関する組合の態度は組合案の全面受諾のみを頑固に主張して、会社の改訂案についてはその受領すら拒み、協約交渉は何ら実のないものであつたし、一時金要求についても、会社の経理上の説明に耳を藉すことなくその要求額を徹頭徹尾固執し、満額受諾の回答が得られないならば、団体交渉を打切ると申向けるなど、回答無用の団体交渉に終始した。かように組合はその要求について団体交渉の実を尽くさなかつたのみならず、争議行為に当つても、後記解雇理由(第四、二、1、(二))に述べるとおり「能美労対追放」を唱えて能美個人に対する人身攻撃を逞しくする等本件争議行為はその目的においてとうてい正当と言うことが出来ない。

同(i)(a)の事実中、組合が時限ストを反復行つたことは認めるが、その余は争う。

同(b)の事実中、一一月二四日組合員三〇数名が時間外手当追加分の明細書を示すよう要求して来たこと、一二月六日以降組合員若干名が変電室前でピケを張つていたことは認めるが、それらが指名ストによるものであることは不知、その余は争う。組合の右時間外手当追加分明細書要求の不当性については、後記解雇理由二、2、(四)、(1)に、又変電室前のピケの態様等については同(二)、(2)に詳述するとおりである。

同(c)の事実中、組合がその主張の日に部分スト、リレーストを行つたこと、会社が労働協約の失効を通告したことは認めるが、その余は争う。会社の生産工程は凡て一貫し各部門とも密接な関連を有するものであるから、右各ストライキにより、一部門に生じた作業遅延が必然的に他の部門に影響を及ぼし、作業能率の低下を来したことは言うまでもない。

(3) 申請人の(3)の主張は、凡て争う。

3  解雇権濫用の主張について。

その(一)及び(二)の各主張は凡て争う。

第四、会社の主張する申請人らの解雇理由

一、申請人新島常嘉、古市幸義、中江勁、石川新助、森宏久は、前記のとおり組合役員の地位にあり、組合執行委員会を構成し、申請人森保治、中村勝美、新島さかえの三名を加えて本件争議につき中央斗争委員会を構成し、二に述べる違法争議行為を企画立案しかつこれを指導実践したものであるから、申請人らは右違法行為についての責任を免れない。

二、本件争議行為の違法性

1  目的における違法性

(一) 団体交渉を尽さない争議行為

会社と組合との間の争議状態は、昭和三六年九月一三日組合が斗争態勢を確立してから、昭和三七年五月下旬まで継続した。この間組合は、会社が労働協約の改訂、年末一時金について正常な団体交渉を望みかつこれを尽くすべく努力したのに対し、事ごとに理由なくこれを拒否し、団体交渉により懸案を解決しようとする意図を予め放棄し、組合の要求だけを一方的に会社に受諾させるべく直ちに実力行使を計画し、昭和三六年一一月六日争議行為に突入し、以後これを反覆したものである。

(1) 労働協約改訂交渉の拒否

前記(第三、三、1、(一))のとおり組合が労働協約五二条に基き協約改訂案を提示したのに対し、会社は九月四日同協約の改訂交渉に同意すると共に会社改訂案を提示した。組合は、右会社案の取扱について同月九日までに具体的に回答することを約束しながら、同月五、六日に行われた協約改訂の団体交渉において、会社の改訂案はその提出時期が右協約の有効期間満了一カ月以前でないから、前記五二条に違反して無効であると主張するのみで具体的回答を示さず、同月一二日会社が団体交渉の実を挙げるべく組合案に対する回答を示すと共に、会社案の審議を併行して行うよう申入れたのに対し、右回答書の受領及び右申入れを拒否した。一〇月四日会社が協約改訂の団体交渉を再開するよう申入れたのに対し、組合は会社案を撤回しない限り応じられないと拒否し、同月九日再度の会社の申入れにより開催された団体交渉においても、会社改訂案の撤回を主張するだけで全く実質的討議に入らず、一〇月一〇日の団体交渉でも、会社の社内速報「国光ジヤーナル」の記事を責め、「これが解決を見る迄は協約交渉を進めない」と申向けて退席してしまい、同月一二日の団体交渉も同様に終始した。

以上のように、組合は瑣末の事項を捉えては協約改訂交渉の遷延を図るだけであつた。

(2) 労使協議会における協議の拒否

組合は、労働協約上いずれも労使協議会の協議事項と定められているにも拘らず、九月三〇日会社が残業協定の締結を申入れたのに対し、労働協約改訂の組合案に対する会社回答が不満であるとの理由だけでこれに応ぜず、又同月二八日検査係の補充に関し組合の意見を求めたのに対し、何らの回答をすることなく協議会の開催を拒んだ。

(3) 会社からの労働協約解約告知後における団体交渉拒否

イ、組合は一〇月三一日年末一時金及び労働協約に関する団体交渉を申入れて置きながら翌一一月一日のその団交では「社長の都合の良い日に改めてやりたい」と云つて一方的に退席し、

ロ、一一月三日の団交において、「社長が団交に出席すること、能美総務部長は団交出席を遠慮すること」等、会社側の団交出席者を指定する申入れをなし、

ハ、同月一〇日の団交では、「社長の委任状も示さないような団交を開くわけにはゆかない」と申向けてこれを拒否し、

ニ、同月一三日の団交では「社長の委任状を示さないなら組合側交渉委員の氏名も知せない。会社は社内報を出すな。団交には社長が出席すること。能美総務部長が出席する限り団交に応じない」と云つてこれを拒否し、

ホ、その他、会社に団交申入書を提出しながら協約及び一時金交渉に一歩も入ることなく種々の言辞を構えて団交を拒否した。

(4) 以上縷述のとおり、団体交渉の都度組合が些細な事柄を口実にしてこれを拒否し続け、只管実力行使のみ労使懸案の解決策とし、直ちに本件争議行為に突入したことは、団体交渉を尽くさずして行つた争議行為として、全体として違法というべきである。

(二) 会社の人事権に対する干渉を目的とする争議行為

前記(一)の協約交渉についての組合の態度及び後記2(一)の事実から推せば、労働協約改訂の要求は本件争議行為の形式的名分に過ぎず、その真の目的は、むしろ会社の専権に属する人事に不当な干渉を加え、能美総務部長を追放するにあることが明らかであり、その目的において違法な争議行為と云うことが出来る。

2  手段、方法における違法性

(一) 会社幹部に対する誹謗、人身攻撃

組合は、能美総務部長が会社入社前二、三の会社に関係した前歴を有することを調査し、軽々しく、同人を「争議屋」と断じ、

(1) 昭和三六年一〇月二四日頃から昭和三七年一月二六日頃までの間、組合速報組合機関紙等に全文に亘つて事実を曲げた記事を掲載して、同人をいわれなく誹謗し、又は人身攻撃を加えて、これを組合員及びその家族又は得意先、会社近隣の住民に配布して同人の名誉並びに会社の信用を毀損し、

(2) 昭和三六年一一月一八日以降組合員に「争議屋能美労対追放」と記したゼツケンを背中に貼付させ又懸垂幕、ビラ等に同種の字句を記載してこれを下げ又は配布して同人の名誉を毀損し、

(3) 同年一一月二日頃申請人新島常嘉は、業界新聞である電気新聞に会社幹部を誹謗する事実資料を提供し、同月六日付の同新聞に、その記事を掲載させて会社の信用を失墜させ、

(4) 組合は、株主総会の招集に当つて取締役に立候補した能美総務部長の選出を妨害する目的で申請人新島常嘉が同月一〇日頃、会社の有力株主神保達を訪ねて能美総務部長に関する悪意の宣伝をなし、同月一七日会社の株主総会が開催されるや、総会に対し能美の取締役就任に反対する旨打電し、同人の取締役選任決議反対要求を貫徹する目的で同日午前一〇時から三〇分間ストライキを行い、以つて同人を誹謗しかつ会社の専権事項に不当に干渉した。

(二) 違法な職場占拠

(1) 会社は昭和三六年一一月二八日から三〇日まで及び一二月六日から八日まで組合が行つたストライキに当つて、その都度適法にロツクアウトを実施し、組合員の入構及び作業を拒否したにも拘らず、組合は会社の意思を排除して会社の施設機械器具材料等を使用して擅に操業を継続させ、

(2) 一一月二八日から昭和三七年二月一三日までの全期間に亘り、会社の制止を無視して会社施設中事務室会議室を除く工場及び倉庫等凡ての建物で、これに出入しようとする非組合員を追尾してその自由行動を制約し、一二月一日以後はその大部分の鍵を会社から奪つて再三の返還要求にも応ぜず、これを自由に使用し、夜間組合員を泊り込ませ、一二月一日から三〇日までの間変電室前に箱を積み上げて防壁とし会社側職員が同室に立入るのを阻止する等の方法によつて前記建物を排他的に占拠した。

(三) 会社施設等の損壊

組合は、一一月一七日以降会社の制止にも拘らず組合員をしてビラ壁新聞等を会社の建造物の内外に無数に貼付し、その白壁部分にも右ビラ等の貼付或いは落書を擅にし、又会社保有の乗用自動車の車体にビラを貼り、マジツクインクで会社及び会社役員を誹謗する落書をなし、或いはタイヤの空気を抜き、バツクミラーを折損し、クラクシヨンの回線を切断したりして、会社の施設、物件を汚損ないし毀損した。

(四) 会社業務の妨害

(1) 時間外手当の追給をめぐる業務妨害

組合は一一月二四日申請人古市、中村、森、木村らの直接指揮のもとに、時間外手当追加支給分を組合に一括支払うこと及びその個人支給明細書を即時作成することを要求して、先ず午前一〇時の休憩時間中組合員約三五名を以つて会社事務室に雪崩れ込み、政重人事課長代理が「賃金は直接本人に支払うべきものであり、明細書は明日支払の際同封して交付できるよう作成努力中である」旨再三説明した上、就業時間になつたので麓総務部次長と共に職場へ復帰するよう命じたにも拘らず、引続き会議室へ座り込んで放歌高吟し、隣室事務室の非組合員の業務を妨害し、次いで午後三時頃から多数組合員が会議室に詰めかけ、再び政重課長代理を包囲して前要求をくり返し、約五〇名の組合員が出口を塞ぎ、四時三〇分頃生産課長その他の非組合員により救出されるまで同人の自由を拘束してその業務を妨害し、更に午後六時三〇分頃から約五〇名の組合員を動員して事務室へ雪崩れ込み、総務部長、製造部長その他の会社職員を包囲して約一時間これを軟禁し、その間罵詈雑言を恣にしてその業務を妨害した。

(2) 生理休暇に対する賃金カツトをめぐる業務妨害

イ、女子組合員のスト中の生理休暇の賃金カツトについては会社と組合間の「諸規定の改正に関する協定並びに附属了解事項」中に「争議行為中の組合員の………生理休暇は認めない。」と明記してあるのに拘らず、組合は、一二月二七日午前一〇時頃右賃金カツトの理由の説明を要求して、申請人古市、森、中村、木村、新島さかえら指揮のもとに組合員約二〇数名を動員して会社応接室に押しかけ、能美総務部長及び政重課長代理の右了解事項に関する説明を不満として僅か三坪の同室に組合員約三〇名が入り込み、午後三時四〇分頃まで約六時間の間右能美らを包囲して罵詈雑言を浴びせ、メガホンを使用して怒鳴りつけたり、放歌したり、物指しで机、椅子を叩いたりして喧噪を極め、同人らの自由を拘束してその業務を妨害した。

ロ、組合は、同月二九日申請人古市、森、中村、木村、新島さかえらの直接指揮の下に、午前九時頃、二七日と同様の要求を掲げ、組合員約三〇数名を動員して会議室に入り込み、政重課長代理の前記と同趣旨の回答を不満として、同課長代理及び麓次長を包囲し午前一〇時には更に組合員約四〇数名がこれに加わり、更に午後〇時一〇分頃説明のため来室した能美総務部長をも包囲の中に閉ぢこめ、午後一時三〇分頃申請人木村らの合図によつて出口を開放し能美らを退室させるに至るまで、その自由を拘束し、引続いて、女子組合員約七〇名が事務室に雪崩れ込み、会社側において重ねて前記了解事項を懇切に説明した上、退去を求めたにも拘らず、約二時間三〇分に亘り通路を塞いで能美総務部長らを包囲し、拡声機を用いて呶鳴るなど喧騒を極めて会社の業務を妨害した。

(五) 実力による出荷阻止

組合は、申請人古市、中江、森、石川らの指揮ないし実行のもとに、

(1) 一二月九日、午前一一時頃、営業課長が非組合員たる職員の協力の下にU2型製品約五個を搬出しようとしたところ、組合員二〇数名を動員して実力をもつて阻止し、営業課長らがなおも搬出しようとするや玄関の鉄扉を閉鎖しピケ隊列を組んで出荷を妨害し、

(2) その後も、争議期間中は倉庫内及び玄関に常時組合員を配置し、職員が工場内を巡視しようとするとこれを追尾したりして、会社の出荷及び下請工場に対する資材の搬出を妨害しようとしたが、昭和三七年二月八日午前九時三〇分頃生産課長が倉庫から「ネームプレート」「セパレーター」等部品の一部を搬出しようとするや、申請人森外組合員二名が出口に立ち塞つて、搬出を阻止し、

(3) 更に同日午后一時から二時頃までの間、営業課長及び倉庫課長が倉庫から製品の一部を搬出しようとしたのに対し申請人中江、森ら組合員三名が出口に立ち塞り、同課長から強いて製品を取り上げ、これを倉庫内に隠して出荷を妨害し、

(4) 二月一〇日午前中営業課長らが製品の一部を出荷しようとするや、申請人古市、中江らが同課長の身辺につきまとつて出荷を断念させてこれを阻止した。

3  就業規則の懲戒事由との関係

以上の組合の違法行為のうち、2の(一)の会社又は会社幹部に対する誹謗、人身攻撃に亘るは旧規則三七条一号一〇号、新規則九五条六号九六条八号九号、(二)の職場占拠は、旧規則三七条一号一〇号新規則九六条八号九号、(三)の会社施設等の汚損毀損行為は、旧規則三七条一号一〇号新規則九四条四号九六条九号、(四)の業務妨害は、旧規則三七条三号新規則九五条二号三号、九六条三号九号に、(五)の出荷阻止は旧規則三七条二号三号、新規則九六条三号九号の懲戒解雇事由にそれぞれ該当する。而して、申請人らは、一、に記載したとおり、これらの違法行為を企画立案しかつ指導実践したものであるから、その責を免れない。

第五、会社主張の解雇理由に対する申請人の反駁

一、解雇理由の主張は、争う。昭和三六年一一月二五日電気労連本部の指導により同本部役員、同労連東京地協役員、国光労組役員によつて国光対策委員会が設置され、以後本件争議を通じて、同委員会が組合の斗争全般を指導しかつ具体的戦術を企画立案したのであるから、仮に会社主張の如き違法行為があつたとしても、申請人らにその企画立案指導の責任はない。なお、組合が中央斗争委員会を組織し申請人森、中村、新島さかえの三名がこれに参加したのは同年一一月二八日であるから、同日以前の行為については右三名に前記企画等の責任は存せず、又申請人石川は昭和三七年一月組織部長を辞任し以後組合事務を担当しなかつたから、同日以後の行為については同申請人に責任がない。

二、同二の主張について

1  争議目的の違法の主張について

(一) 右主張の一について

冒頭記載の事実については、会社主張の期間争議状態が継続し、その間争議行為が反復されたことを認め、その余は争う。

(1)の事実のうち、会社主張の日にそれぞれ労働協約改訂についての組合案、会社案が提示され、協約改訂のための団体交渉が行われたこと、九月五日の団交で、会社案の取扱をめぐつて労使の意見が対立したこと同月一二日の団交で、会社が組合案に対する回答を示し、組合がその受領を拒否したことはいずれも認めるがその余は争う。組合は九月四日までに組合案に対し回答するよう要求したが、会社は何らの回答を示すことなく、組合活動の規制を内容とする会社案を示しただけで、同月五、六日は組合案の審議を行つた。同月一二日会社が示した組合案に対する回答書の内容は、組合要求に添えないという趣旨のものであつたから、回答書の形式的不備をも指摘してその受領を拒否したものである。その後は却つて会社が、組合の再三に亘る団交申入を拒否し、会社側が団交を申入れた事実はない。一〇月以後再開された団交でも、会社側は時間を制限して実質交渉に入ることを妨げ、一方的に退席して団交を打切り、ついに同月二三日労働協約解約の申入れに及んだのである。

(2)の事実のうち、残業協定締結の申入れを組合が拒否したこと、会社が検査係補充に関する回答を組合に求めたことは認めるが、その余は争う。組合は、当時会社に残業手当増額を含む要求及びその団体交渉を拒否されていたので、前記のとおり残業協定を拒否したのであり、又検査係補充申入れの回答をしなかつたのは、組合執行委員長が電気労連第二六回中央委員会に出席して不在であつたためであり、その帰任を待つて一〇月七日に会社側と協議している。

(3)の事実のうち、組合が団体交渉を申入れ、会社主張の日に団体交渉が開かれたこと、一一月三日の団体交渉には組合から、特に社長の出席を要請したことは認めるが、その余は争う。

(4)の主張を争う。

(二) 右主張の(二)は、凡て争う。

2  争議手段、方法の違法の主張について

(一) 右主張の(一)について

(1)及び(2)の事実は、文書、ゼツケン、垂幕等の内容が事実歪曲、人身攻撃、名誉毀損に亘るとの点を除いて、凡て認める。それらは、いずれも、正当な組合活動の範囲内のものである。すなわち、前記(第二、三2(二)(2)ハ)のとおり昭和三六年春季斗争以後、日経連の労対オルグ能美の指導により、会社の対組合態度が著しく硬化し、同年八月能美が会社総務部長に就任した直後から労働協約の改訂問題を契機として労使関係が険悪化して来た。そこで、組合が同人の前歴を調査した結果同人は、昭和二八年頃東京機械株式会社、その後富士精密機械株式会社、昭和三三年から三六年七月まで東邦製作所に関係して、その労務を管理して来たが、その組合対策は常に挑発的で、無用な紛争を惹起して組合を苦しめるものであつたこと及び昭和三六年六月一七日頃入学金詐欺容疑による逮捕歴があることが判明した。申請人らは以上の事実を総合して昭和三六年春以降の会社の労使関係悪化の原因が専ら能美並びにその一派による会社の労務対策にあると判断し、組合員に対して同人の労務対策及びその性格に対する認識と自覚を深めさせかつ会社に対し同人の労務対策について反省を促す目的のもとに前記宣伝広報活動をしたにすぎない。

(3)の事実は争う。業界新聞の記事は同新聞記者が電機労連本部その他から取材したもので、内容も真実に合し、かつ会社と無関係な事項であるから、会社の信用に影響するところがない。

(4)の事実のうち、申請人新島常嘉が会社株主神保達を訪ねた(その日は一〇月一七日である。)ことは認めるが、その目的とするところは、同人に能美の経歴、性格等に関する事実を伝えて、もし能美が取締役に選任された場合に惹起されうべき従来の労使慣行の破壊についての認識とこれが回避を訴えるにあつた。又、能美の取締役選任の株主総会当日これに反対の意思を表明してストライキを行つたことは認めるが、右ストライキは、会社に対する前記諸要求の貫徹を併わせて目的としたものである。従つて以上の行為はいずれも正当な組合活動である。

(二) 違法な職場占拠の主張について

(1) (1)の事実中、会社がその主張する期間ロツクアウトを実施し、組合がその間会社工場施設を占拠したこと、(2)の事実中、組合が会社主張期間中職場を占拠し、夜間組合員を職場に残留させ、一二月六日から(一日からではない。)三〇日までの間変電室前に組合員を配置したことは認めるがその余の事実は争う。夜間残留は各階一二名程度に過ぎない。

(2) しかし、右職場占拠は次の理由で正当な行為である。

イ、ロツクアウト期間中の職場占拠の正当性

組合は会社が一一月二七日の団体交渉でもかねての協約改訂等の要求はもとより社長出席の要請にも応じなかつたので、会社に対し同月二八日午前一〇時一〇分から三〇分間右団体交渉経緯の組合員報告集会を開く旨届出たところ、会社はこれを拒否した。それで已むなく、同日午前一〇時から一〇分間の休憩時間に引続いて三〇分間の時限ストライキをする旨通告して集会を開くや、会社は同日午前一〇時一〇分から三〇日午後一一時迄ロツクアウトする旨を通告して来た。さらに会社は、組合が行つた一二月六日午前八時から二時間の時限ストライキに対し同日一日間、同じく同月七日の二四時間ストライキに対し同日及び翌八日の二日間の各ロツクアウトを宣言した。以上のように、組合の短時間のストライキに対してこれを著るしく超過する長期間のロツクアウトを会社が実施したについては、工場施設の保全等のやむを得ない必要性を全く欠き、その目的は専ら長期間のロツクアウトによつて賃金支払義務を免れ、組合員の生活に圧迫を加え、以つて組合の活動を鈍痲させることにあつたのであるから、会社の右ロツクアウトは違法な争議行為というべきである。そこで前記各時限スト終了後組合員が各自の職場に復して就労したところ、会社側も、右就労を平常通り容認し、組合員の就労中、会社側職員は自由に職場を巡回し出入していたものであつて、右職場占拠には何ら違法性がない。

ロ、その他の期間中の職場占拠の正当性

組合が、会社主張の期間中にした会社施設の占拠は、何らの排他性のないものであるから違法ではない。特に変電室前を占拠したのは、会社が組合員の就労中無警告で電源を切る等の方法でロツクアウトを実施する虞れがあつたため、これによりプレス工等の生命身体に対する危険を防止する等の保安の必要上、組合員二名(但し一二月六、八日は五名)を指名ストにより見張りとして配置したにとどまり、右見張り中も会社の設計課長及び変電室担当員(組合員)が平常通り交替で変電室を巡回するのを組合側が阻止したことはない。

(三) 会社施設等の損壊の主張は、凡て争う。組合はビラ壁新聞などを各職場にある組合掲示板に掲載しただけであり、会社乗用車の損壊については全く関知しない。

(四) 会社業務の妨害の主張について

(1) (1)の事実中、一一月二四日午前一〇時の休憩時間中組合員約三五名が会議室に入り、時間外手当追加支給の明細を示すよう麓次長、政重課長代理に求めたこと、同日午後六時三〇分頃から約五〇名の組合員が事務室附近へ集つたことは認めるが、その余は争う。

(2)イ、の事実中、一二月二七日午前一〇時頃から午後三時三〇分過まで約二〇名の女子組合員が応接室で能美総務部長、政重人事課長代理らと、争議中の生理休暇に対する賃金カツトについて質疑応答し、右の折衝に申請人古市、森、中村、新島さかえが立会していたこと及び会社主張の「協定」中にその主張のとおりの規定があることは認めるが、その余は争う。

同ロ、の事実中、同月二九日午前一〇時頃(午前九時ではない)から女子組合員一〇数名(三〇余名ではない)が会議室で麓次長及び政重課長代理と、同じ件で質疑応答し、これに申請人森、中村、新島さかえが立会したこと、同日午後二時三〇分頃(一時三〇分ではない)から一時間(二時間半ではない)約七〇名の女子従業員が事務室及びその附近に集り、そこに申請人古市、森、中村、新島さかえが同席したことは認めるが、その余は争う。

(2) 叙上の問題の経緯は、次のとおりである。

イ、時間外手当追加支給問題について

組合は九月以降の団体交渉を通じて会社が従来労働基準法二九条に規定する基準以下の時間外手当しか支払つていない事実を知り、これを追及したところ、会社もこれを認め、計算書が出来次第追加支給する旨を一〇月三日に回答した。その後一一月二一日組合員数名の求めに応じ加藤経理課長が同人等に各自の支給明細を明らかにしたので、これを伝え聞いた組合員が各自同様の要求をしたところ、同課長はこれに応ずる旨約束した。そこで申請人古市、石川は組合を代表して、同月二四日午前九時三〇分頃会議室で麓次長政重課長代理と会い、右時間外手当追加分の支給について、(一)支払に当つて臨時組合費をチエツクオフすること、(二)労基法所定どおり計算に誤りがないことを保障するため、組合が点検出来る状態で支払うことを要求したが、同次長は(一)については時間的に間に合わないため、(二)については組合を窓口として支払うことはできないとして、いずれもこれを拒否した。そのうち午前一〇時の休憩時間になつて組合員が会議室に入り込んで来たため、右申請人らは一時会社との交渉を中断したが、組合員らが次長らに対し経理課長との約束の経過を説明中休憩時間が切れようとしたので、会社との紛争を避けるため、会議室にいた組合員らを午前一〇時一〇分から指名ストライキに入れる旨をその場で会社側に通告した。以後組合員らは個々に次長らと交渉を継続したものであるが、その間次長らは交々離席したり昼食のため退席することもあつた。午後一時頃再び政重課長代理が同室に現われたのでさらに質疑を続行したが、その間も同課長は自由に離席していた。又午後六時三〇分頃から事務室に入室した組合員三、四〇名は、午後七時前頃まで能美総務部長及び小林工場長に明細書の提示を求めていたが、その間も同人らは自由に退出できる態勢にあつた。申請人古市、木村、中村はこれら組合員と会社側との質疑応答に立会しただけであり、申請人森は出席していなかつた。

ロ、生理休暇に対する賃金カツトの問題について

女子組合員のストライキ中の生理休暇については、従来労働協約及び労使の慣行によつて、スト突入前に届出があつたものに限り、会社はこれを有給休暇と認めていたにも拘らず、今次の争議中はこれに対しても賃金カツトを行つたので、申請人古市、森、中村、新島さかえが女子従業員間の不満を取り上げ、一二月二七日に会社側の説明を求めたところ、政重課長代理がこれに応ずることになつた。そこで、賃金カツトを受けた女子従業員約二〇名はそれぞれ所属班長の許可を受けて交渉場所である応接室に赴いたものである。又同月二九日は、午前中になされた約束に基き女子組合員約四〇名が午後一時前頃会議室に集合して交渉再開を待機していたところ、能美総務部長が来室したので、交渉を始め、同部長の回答が午前中になされた小林工場長の組合側の意見を認める趣旨発言と喰い違つたため、これを質すべく更に席を事務室に移したものである。右両日とも能美総務部長らの出入は自由で、組合員らがこれを制止したことはなく、又前記申請人らは、女子組合員の発言を補け、相互の意見調整を図るため立会したにすぎない。

ハ、以上のとおりであるから、いずれの場合も違法な業務妨害に当らない。

(五) 実力による出荷阻止の主張について

(1)ないし(4)の事実は凡て争う。(1)の点については、会社部課長数名がスト中の工場に入り配電函一〇個入ケース二、三箱を会社の玄関に担ぎ出したけれども、申請人古市らの説得により、これを中止して翌々日にこれを出荷する旨の了解が成立した。(2)、(3)の点については、生産課長らが倉庫内で探し物をしていたのを組合員が詰問して論争になつただけである。(4)の点については、営業課長らが倉庫内に入つたのを組合員が詰問し、同課長が、「私物を取りに来たのだ」と受け答えしただけである。

3  組合員の争議行為が就業規則の懲戒事由に該当するとの主張は争う。

第六、申請人の反駁に対する会社の再反論

一、会社の実施したロツクアウトの正当性について。

会社が一一月二八日及び一二月七、八日のロツクアウトを実施したのは、次の事情を前提とするものである。すなわち、一一月一四日会社の社長が従業員全員に訓示しようとしたところ、組合がこれを妨害したので会社から警告したところ、組合は同月一六日右警告に抗議する目的で時限ストライキを行い、翌一七日は能美の取締役選任決議に反対して時限ストを行い、同月二一日には、会社に無断で就業時間中一時間の職場大会を行つて職場を放棄し、二四日には指名ストによつて、二八日には前述のとおり、許可なく就業時間中の職場集会を強行して会社業務を妨害した。かように、組合はその欲する時と所とにおいて擅に時限スト又は職場大会を頻繁に繰返えし、ために会社として生産が著るしく低下し、需要先に対する生産及び販売計画の立案に窮し、到底業務の正常運営を期待し得ない事態となつた。そこで会社は、組合が一一月二八日時限ストに、又一二月七日二四時間ストに突入するや、企業の損害を防止する目的で一一月二八日から三〇日まで及び一二月七日、八日ロツクアウトを宣言し、その旨組合に通告し、又会社の正面玄関に掲示すると共に退去を要求したものである。従つて、右ロクツアウトはいずれも会社の当然の防衛措置であつて、正当な争議行為というべきである。

二、時間外手当の追加支給について

昭和三六年当時の労働協約及び給与規程によれば時間外手当は基本給の三割増を支給するものと定められ、一方会社は従来賞与の前払として月々生産手当金を支給し基本給とは別扱していたが、右生産手当は本質的には労働基準法の時間外手当の計算基礎とするのが適当であると判断し右労働協約及び給与規程を改正してこれを時間外手当計算の対象とする新方式に改めるものとし、八月二五日に出された組合の時間外手当増額要求に対し、九月一二日これを上廻る回答をなし、更に右新方式を遡及して実施することとしその追加分の支給は計算の済み次第、これを行う旨回答したのであるが、申請人ら組合側は、右追支給の要求に藉口して組合員多数を動員し、会社側に右の計算のための時間的余裕がないことを承知しながら即時明細書の作成を強要し前記のとおり会社側の事務を妨害したものである。

第七、証拠<省略>

理由

第一、被申請人会社が昭和一二年に設立され、配電函、函開閉器、電磁開閉器、カツトアウトスイツチ、配電盤用電流計等の電気機械器具類の製造販売を業とし、昭和三七年三月当時従業員二六三名を擁していたこと、会社従業員が昭和二一年五月一日国光電機労働組合を結成し、昭和三七年三月当時、申請人らを含む約一八〇名の従業員が加入していたこと、申請人らが会社において別表記載のとおりの職に就いていたところ、昭和三七年二月一四日会社から解雇の意思表示を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。

第二、以下申請人らに対する右解雇の意思表示の効力について判断する。

〔一〕  労働協約違反の有無について

組合と会社間で昭和三五年一〇月一日に締結した労働協約一七条、五二条及び昭和三六年三月一日に締結した「諸規定の改正に関する協定並びに附属了解事項」の七「附帯確認事項」の(一)に後記のとおりの定めがあること、会社が、昭和三六年一〇月二三日労働協約を解約する旨告知したことは、当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、会社が申請人らを解雇するに際して、事前に組合の意見を求めた事跡のないことが認められる。従つて、申請人らに対する解雇は、その当時労働協約が有効に存続する限り、その第一七条「会社は組合員の(中略)人事に関しては必ず事前に組合の意見を求め、尊重してこれを行う」との規定及びこれと同趣旨を確認した前記「附属了解事項」の七「附帯確認事項」の(一)に一応違反するものといえよう。

ところで、労働協約五二条には「本協約の有効期間満了一カ月以前に当事者の一方より改訂の意思表示のないときは、本協約は自動的に更に一カ年延長されるものとする。但し、有効期間中に改訂協約の成立しなかつた場合は成立する日迄有効とする。」と定められ、右規定は労働協約の有効期間満了により無協約状態が生ずることを防止するためのいわゆる自動延長約款と解されるところ、右期間が満了する昭和三六年九月三〇日より一カ月以上前の同年八月二五日に組合が組合案を会社に提示して労働協約の改訂を申入れたことは当事者間に争いがないから、本件の場合同条本文の適用を受けないことは明らかであるが、同条但書の規定は、本文の反面解釈として、有効期間満了の一カ月以前に当事者の一方から協約改訂の申入れがなされた場合でも新協約締結の交渉が右期間満了前に妥結を見ないときは旧協約の失効によつて無協約状態を招く結果となることを慮り、期間満了後も従前の労働協約の諸条件を暫定的に持続させる趣旨と解されるから、本件労働協約は期間満了によつて直ちに失効することなく、一〇月一日以降もなお効力を持続しているものと云うべきである。ところで、会社は、右期間満了後に存続する労働協約は期限の定めがないものとして労働組合法一五条三項に基き解約告知が出来ると主張するので考えてみるのに、同法一五条が労働協約の存続期間に一定の制約を加えた趣旨は、経済事情等に応じて流動的な労働関係が労働協約により長期間に亘つて固定化されることを不合理とし、その有効期限が無制限に延長されることを防止するにあるものと解されるから、自動延長約款において一応その有効期限が定められていても、その到来の時期(本件協約について云えば「改訂協約の成立する日」)が労使一方の恣意により無期限に延長され得ると見られるものは、同法一五条三項後段の「期限を定めず効力を存続する旨の定」に該当するものとして、同条の定めるところに従い当該労働協約を解約出来るものと解するのが相当である。

そうだとすれば、本件労働協約は会社が前記解約告知(右告知が適式になされたことは申請人らの明らかに争わないところと認められる。)の日から九〇日を経過した昭和三七年一月二二日失効したものと云うべく、右協約の有効を前提とする申請人らの主張は、その理由がない。

〔二〕  就業規則違反の有無について

成立に争いのない乙第二号証、会社代表者桜井健一の供述により成立を認める乙第一号証及び右本人の供述によれば、会社は申請人らの所為が旧就業規則(昭和三三年一一月九日施行、同三七年二月八日限り廃止)三七条及び新就業規則(同三七年二月九日施行)九六条所定の懲戒解雇事由に該当し懲戒解雇に値するものと考えたが、申請人らの将来の就職等を配慮して、就業規則の懲戒規定を適用することなく一般解雇権の行使として(但し、労働基準法二〇条一項但書の「労働者の責に帰すべき事由」があるものとして)、即時解雇に付したものであることが認められる。かようにいわゆる解雇自由の直接的な行使としてなされた解雇であつても、会社が右解雇の正当事由として主張する事実の存否、その懲戒規定該当の有無等の点については、不当労働行為ないし解雇権濫用の主張の成否を判断する重要な資料として十分に検討を要することは勿論であるけれども、右解雇について懲戒解雇に関する就業規則違反の問題を生ずる余地はなく、申請人らが就業規則違反があるとして主張するところは、この意味においてその実体につき判断を加えるまでもなく凡て失当である。

〔三〕  会社の解雇事由の当否について

一、昭和三六年九月一四日組合がいわゆるスト権を確立してから同年一一月二八日までに行つた争議行為その他の組合活動は、申請人新島(「新島常嘉」を指す。以下同じ)古市、中江、石川、木村が組合執行委員会を構成してこれを指揮、指導していたものであるが、同日会社が初めてロツクアウトを通告するに及び、右執行委員のほか申請人中村(青年部長)同新島さかえ(婦人部長)同森及び電機労連オルグ一名を構成員とする斗争委員会が電機労連本部指導のもとに即日設置され、以後昭和三七年二月までの間に行つた争議行為は同委員会がこれを指導したものであること、右のうち申請人石川は、昭和三七年一月一〇日結婚のため、執行委員(組織部長)及び斗争委員の任を解かれたことは、新島、古市、石川、中村ら申請人本人の供述によつて認めることができる。

二、以下、会社が解雇事由として主張する個々の事実について検討する。

1 争議目的の違法の主張について

(一) 団体交渉を尽さないとの点について

(1) 当事者間に争いのない事実(以下〔 〕を付して表示する部分)に、政重悦生の証言により成立を認める乙第六三号証、右政重及び能美一夫の各証言及び桜井本人の供述を総合すれば、次のとおり認められる。

(イ) 前記のとおり組合は八月二五日会社に対し協約改訂を申入れると共に、退職手当金等の増額及び時間外勤務手当支給の要求を提出し、その回答を九月四日に提示するよう求めた。そこで、会社は同日協約改訂交渉に応ずる旨を組合に回答して〔会社側の改訂案を示し、協約改訂を議題として翌五日団体交渉が開かれたけれども、会社案の取扱をめぐつて労使の意見が対立した。〕すなわち組合側は、会社が協約五二条に基づき、有効期間満了の一カ月前である同年八月末日までにその改訂案を提示しなかつたのであるから、その提示は無効であり、従つて会社側改訂案は受理できないものであると主張し、会社側は、協約五二条は、一方から所定の時期に改訂申入があれば自動更新が停止されるものであることを規定しているのであり、組合側の改訂申入が既に適法になされた以上その後になつて、会社が改訂案を提示したとて何ら違法ではないと主張するものであつた。然し、同日はともかく先に提示された組合案について、組合側の説明に入り翌六日もこれを続行し、なお組合は同月九日までに会社案の取扱についての、又会社は、同月一二日に組合案についての回答を示すことを約した。けれども、組合は、約束の日時に又その後も遂に右の回答をしなかつた。同月一二日会社は右約束の回答文を朗読して組合側に示し会社案との併行審議方を求めたところ、組合側は、文書の社長認印が違う、と云い掛りをつけてこれを受取らず僅か三〇分間で休憩を要求して引揚げ、「会社は、我々の要求を全面的に拒否する回答書を出して来た。組合は、直ちに受取りを拒否し交渉を打切つた。」という内容の組合速報を社内に貼り出した。

同月二八日会社は組合に対し、右の団交の再開を申入れたところ、翌二九日組合は、「単に団交を開くだけでは無意味である。組合案に歩み寄つた回答を示すことが先決である。」と強調し再開に応じなかつた。一〇月五日組合から団交を申入れ、同月九日これを再開したところ、組合側は、「九月一二日以来団交が開かれなかつた責任は会社にある。同日は組合側は休憩をとつたのであつて打切つたのではない。会社回答書の印が違う。」などと発言して本題に入らず、翌一〇日続行された団交でも、会社が国光ジヤーナル第三号をもつて「労働協約改訂に関する交渉経過」を社内に報じたのを取上げ、会社が事実を歪曲しているとなし、右社内報の問題が完全に解決しない限り、交渉を進めないと述べて打切つた。

(ロ) かような推移の末、会社は同年一〇月二三日組合に対し労働協約の解約を申入れたのであるが、その後における団体交渉について組合のとつた態度は、同月三一日年末一時金及び労働協約改訂に関する団体交渉を申入れると共に、会社側の団体交渉委員のうち能美総務部長の出席はこれを遠慮するよう申入れ、翌一一月一日の団交では、社長が都合で出席しなかつたところ、「社長の都合のよい日に改めてやりたい。」と云つて退席し、一一月三日の団交でも、能美の出席を拒否する旨主張するのみで団交の協議に入ることを拒否し、

同月九日、会社が同月四日に出した社内速報第四号の不当労働行為抵触の件等を議題として団交を申入れながら、会社側交渉員がいちいち社長の委任状を持つて団交に出席する必要はないと述べたのを理由に右申入を撤回し、

同月一三日の団交では、「今後会社は社内報を出さないこと。団交には社長が出席すること。能美が団交に出席することを拒否する。組合側傍聴者の人数を三〇名より減らすことは出来ない。又組合側交渉員の氏名は予め通知しない。」と述べ、会社がこれを断るや、「会社が団交を拒否したものと看做す。」と云つて引揚げ、その他年末一時金、残業手当に関し、自ら団交を申入れながら、その実質的団交に入ることが無かつた。

(ハ) 成立に争いない甲第三号証によれば残業協定の締結、検査係の補充のための職場異動はそれぞれ、協約上、労使協議会の協議及び組合意見の聴取事項とされているが、九月三〇日会社が前者につき協議会の開催を申入れ、後者については同月二八日その意見を求めたところ、組合は、残業協定の締結については労働協約の改訂問題の推移が満足できない状態である以上、理由のいかんを問わずこれを拒否すると回答し、検査係の補充については再三確答すると云いながら、全く回答しなかつた。

(2) 以上の認定にそわない証拠は凡て採用できない。

(3) 右に認定した事実によれば、労働協約の改訂、年末一時金、時間外手当の支給、残業協定の締結などの交渉事項全般に亘つて、会社と組合間の団体交渉は殆んどその交渉手続の段階の紛議に終始し、全く実質的審議に入つたことがないと云つても過言ではなく、その原因の一半は、組合側が協約五二条の解釈について独自な見解を意固地に主張し、社長の団交出席要求に過度にこだわり会社側団交員中の特定の者の出席を拒否する等の行為にあり、それらが団体交渉に臨む組合の態度として頑固、偏狭に過ぎるものであることはこれを認めるに難くないけれども、労使関係全般を律する労働協約改訂問題の重要性、後記能美総務部長の前歴、弁論の全趣旨から窺われる同人入社後の会社の労務管理対策の強化等の事情を考えると、組合が上記態度に出たことについて諒恕できる点が全くないわけではないから、叙上の態度のみを以て直ちに、組合が団体交渉により労使の懸案を解決すべき意図を予め放棄し、只実力行使だけを恃んだものと見るのは当を得たものと云えない。その他、組合が十分な団体交渉を尽くすことなく故なく争議行為に出たことを認めるに足りる証拠はないから、この点を以て本件争議目的を違法とする会社の主張は採用できない。

(二) 人事権干渉(能美追放)を目的とするとの点について

(1) 成立に争ない乙第二一号証、能美、森田の各証言、新島、桜井各本人の供述を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 能美は、昭和二〇年まで現在の経済団体連合会及び日本経営者団体連盟(略称・日経連)の前身である日本経営連盟会に約二四年間勤続し、戦後は昭和二七年頃まで日経連に勤務して労務管理部門に習熟し、その後東京機械製作所顧問、東邦製作所役員、社長を歴任したが、右両社在職中労働組合との間に争議を生じた際には、経営者側として強硬な態度、対策をもつてこれに臨み、昭和三六年二月頃から被申請人会社顧問となり、同年春斗以来会社の労務対策について助言、指導して来たが、同年八月上旬懇請により総務部長として入社し、同年一一月からは取締役営業部長をも兼任した。

(ロ) 組合は、昭和三六年春斗以来会社が班長(組合員)に対する指導教育を開始し、社内報「国光ジヤーナル」を創刊して従業員(組合員)に配布し、又団交の席上でも組合側発言に強硬に反撥するなど、組合に対する態度が頓に硬化したことを感じとり、能美の総務部長新任の事実と考え合わせて同人の前歴を調査知得した結果、会社側の右態度硬化の原因はその労務対策を主管する能美の指導方針によるものと判断し、同人を会社から追放せよとの主張を掲げて、後記認定のような行為に及んだ。

(2) 以上の認定に反する証拠は、採用しない。

(3) 会社の役員或いは会社の利益代表者と目される上級職制の人事が使用者側内部の問題として労働組合の介入すべき事項でないことは、一般論として一応首肯できるけれども、組合の主張が右人事に介入すること自体を直接の目的とするものではなく、労働条件の改善等労働者の経済的地位の向上を図るための必要手段としてこれを主張することは、必ずしも組合活動の正当範囲を逸脱するものとは云えない。殊に、組合が経済的要求等を掲げて会社と争議状態にある場合、その間における組合側の言動が個々的に会社側内部の人事に介入するような表現、態様を呈したとしても、前記組合要求を貫徹するための手段としてなされ、或いは本来の争議目的を達するための要求の一環としてこれを争議目的の一つに付加したにすぎないと見るのが相当であり、その故をもつて争議目的の違法を云為すべきではない。さきに認定した本件争議の経緯と後記認定の組合側の行為とを照し合わせて見ると、それらに於て能美追放を謳つた趣旨は、労働協約改訂、年末一時金支給等の諸要求を組合の有利に解決するための争議手段として、同人の労務対策に反対する謂われを強く表明するにあつたものと認められるから、本件争議目的が専ら能美追放を企図した違法なものであるとの会社の主張は、採用できない。

2 争議手段、方法の違法の主張について

(一) 会社幹部に対する誹謗、人身攻撃

(1) 当事者間に争いがない事実に前出乙第二一号証、成立に争いのない乙第一八号証、能美、阿河、政重、森田の各証言、新島、桜井各本人の供述を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 〔組合は、次のようなビラないし文書を、組合員その他一般従業員家族、会社近傍の一般市民に配付した。

(い)「判つたぞ、会社の作戦」「会社が強くなつたのは能美氏が会社に関係して」「能美氏とはどんな人だろうか」と見出しのある昭和三六年一〇月二四日付組合速報、(ろ)「能美氏は前の会社でどんなやり方をしたか」と見出しのある同月二五日付組合速報、(は)「組合の要求をワザとねじ曲げ煽動する能美氏のやり方」と見出しのある同月二七日付組合速報、(に)「残業問題で会社一歩後退これも能美作戦油断禁物」と題する同月三一日付組合速報、(ほ)「挑発にのらず全員一丸で取組う」と題する同年一一月一日付組合機関誌「国光」、(へ)「組合員並びに御家族の皆様え」と題する同月六日付組合速報、(と)「遂に能美労対は、おどかしと組合弾圧と崩切しを宣戦布告」と見出しのある同月六日付組合速報、(ち)「会社は何故強硬な能美労対を入れたか―会社の組合攻撃の目的」と題する同月二〇付「国光」、(り)「組合員並びに御家族の皆様え」と題する同月二九日付書面、(ぬ)「会社は労対屋能美を重役に据えて、本格的に組合弾圧を考えている」という趣旨の同年一二月一三日付「討議資料」と題する書面、(る)「能美労対重役の一カ月―強引作戦すべて失敗し孤立」と題する同月一九日付「国光」、(お)「能美労対女子組合員に暴行―生理休暇の実質的な禁止を狙う」と題する同月三〇日付組合速報、(わ)「争議屋を追放して明るい職場を」と題する組合員の記事及び「能美スーダラ節」と題する替え歌を登載した書面、(か)「町内のみなさんー」「争議の張本人はこの人です。」と見出しのある昭和三七年一月二六日付書面〕

(ロ) 同年一一月二日頃申請人新島は、業界新聞である「電気新聞」記者に、能美の経歴、その労務対策の前歴、東邦製作所社長を辞任した原因は同人の出身高校への入学斡旋料と称して石川某から金五〇万円を詐取した嫌疑による旨、同人が会社に入社するに伴い発令された社内人事などについて資料を提供し、これらに関する内容が同月六日付電気新聞に掲載された。

(ハ) 組合側は、能美が株主総会で取締役に選任されることを阻止するため、〔申請人新島において、同月一〇日頃、会社の取締役で、有力株主である神保電機株式会社社長神保達を訪ね〕その工場長を通じて、能美が会社取締役に選任されないよう助力を求め、〔一一月一七日株主総会当日、同総会宛に「能美の取締役就任に反対の意を表明し、同日午前一〇時から三〇分間争議行為を行う」旨打電し、その争議行為を実施した。〕

(ニ) 〔同年一一月一八日以降組合が、組合員に「争議屋、能美労対追放」と記したゼツケンを背中に貼付させ、又同趣旨の文句を記載した懸垂幕を会社社屋に吊した。〕

(ホ) 前認定のように九月以降労働協約改訂に関する協約条項の解釈、会社側の出席者等の問題をめぐつて双方が鋭く対立し団体交渉が紛糾を続けている間、会社は一〇月上旬「労働協約等改訂に関する交渉経過」と題する社内報を従業員に配布し、同月二三日労働協約解約告知に及び、同月三〇日には時間外賃金に関する組合への回答内容を社内速報で公表するなど、組合の態度を批判し会社の主張が正当であることを組合員ら全従業員に訴える趣旨の記事を掲げた社内報を屡々発行した。

(2) 以上の認定に反する証拠は採用しない。

(3) 叙上の争議の経過、殊に上記(1)(ホ)のような会社の攻勢的態度が組合側を刺戟し、就中申請人ら組合幹部においてその根源は組合員と組合員の離反を謀つて組合団結の破壊をねらう能美の指導方針にあるものと判断し、これに対する警戒、危惧の念を強めたとしても、同人の前歴や入社経緯から見て、強ち不自然とは云えない。前掲(1)(イ)のビラ、文書の内容は、争議状態下の組合が組合員に団結を、近隣の住民に争議への理解、同情を訴えるため、能美を中心とする会社の労務対策の不当性を誇張的、揶揄的に表現した趣旨にとどまるものであることは、全文を精読すれば了察するに難くないところであるから、これを誹謗、人身攻撃に亘る違法なものと云うことは相当でない。同(ニ)のゼツケン、垂幕の字句についても、同様である。同(ロ)の「電気新聞」記者に報道資料として提供した事実のうち、入学斡旋料詐取に関する点は私行上の人身攻撃に亘り、争議手段としてフエアなものとは云えないけれども、成立を認められる甲六五号証の一(毎日新聞記事)によれば能美が官憲から右詐欺の嫌疑を受けた事実が認められるから、これを誹謗と云うのは当たらないし、その他の資料提供については、これを違法視する謂れがない。又、前判示(1(二)(3))のとおり能美の取締役就任に対する組合活動が許されるものであるとすれば、そのための同(ハ)の行動も、これを違法として非難するに値しない。

結局、この点に関する会社の主張は、すべて理由がない。

(二) 職場占拠

(1) 当事者間に争いない事実に前出乙第三、第九、第一一、第四六(一ないし三)、第四九(一ないし五)、第六三、第六四号証、成立に争いない甲第三八号証、乙第九四号証(二、四)、小林及び政重の各証言、桜井本人の供述を総合すれば、次のように認められる。

(イ) 組合は、同年一一月二八日、午前一〇時前、会社に対し、前日行われた年末一時金交渉の模様を組合員に報告するため、工場二階の借用と、右報告会が午前一〇時一〇分から約三〇分間勤務時間に食込むことを、諒承されたいと申入れた。会社は、かねて同月二一日以来組合が会社の警告を無視して再三勤務時間に亘つて職場集会を開き団体交渉の結果等を報告し、討議することがあつたため、組合の右申入に対し、休憩時間内にこれを行うよう回答した。午前一〇時の休憩時刻から職場集会が開かれたが、組合は同一〇分休憩時間が終了する頃、会社の右拒否回答を理由として同一〇分からストライキに入る旨を会社に通告し右集会の続行を謀つた。そこで会社は、〔即時同月三〇日午後一一時までのロツクアウトを宣言し、〕その旨を口頭及び文書をもつて組合に通告するとともに会社正面玄関にバリケードを構築し、工場内の鍵をかけて組合員の入場を阻止し、右玄関及び工場内要所に右ロツクアウト宣言ないし立入禁止のビラを貼付し、マイクで再三その旨を伝えて組合員に対し、職場を退去することを要求した。しかし、組合は集会終了後も組合員を職場に留まらせ、玄関のバリケードを除去し、工場の鍵を破毀して工場内に侵入し、機械器具等を使用して擅に操業を強行した(なお、同日組合は、申請人新島、古市、中江、石川、木村、森ら六名の、同月三〇日申請人中村、新島さかえ外二名の各無期限指名ストライキを会社に通告一二月六日午前八時組合は、勤務時間内に組合員を各職場に集めた上会社に対して職場集会の許可を申入れ、会社が即座にこれを拒否するや直ちにストライキを通告し午前一〇時までこれを行つた。〔会社は午前八時過頃、同日午後一一時までのロツクアウトを宣言掲示し、〕バリケード構築を除き工場内要所及び変電室を閉鎖するなど前同様の措置をしたが組合はその間も各職場の占拠を継続した)。

同月七日午前八時前、組合は、職場占拠の態勢をとつた上、いきなり会社に対し同日午前八時から二四時間ストを実施する旨を通告したので、会社はこれに対抗して直ちに四八時間ロツクアウトを通告、掲示したが組合は依然として職場占拠の態勢を解かなかつた(なお、同日会社は、前記無期限指名ストライキの指名者である申請人ら一〇名に対する無期限指名ロツクアウトを組合に通告した。)。

(ロ) 以上のほか、同年一二月以降翌年二月一四日申請人らが解雇されるまでの間に、組合は指名ないし部分ストライキ(一二月及び二月に入つてからは殆んど連日に亘り)、全員による時限ないし一日以上に亘るストライキ(一月一〇日以後は殆んど連日に亘り)を反復し、会社も一月中に二回(約四日間)、二月に入つてから殆んど連日(一〇日からは無期限の)ロツクアウトの通告を反復してこれに対抗した。その間、組合は事務室、会議室を除いて工場、倉庫等殆んど凡ての会社建物に組合員を滞留させてこれを占拠し、ロツクアウト期間中にも擅に操業した。特に一二月一日以降組合は、倉庫等の主要建物の鍵をその保管責任者である班長(組合員)から提出させて、会社の返還要求にも拘らず保持し、これを使用して自由に建物に出入し、夜間には組合員を泊り込ませ、守衛等の会社側職員に組合員を追尾させて構内における自由行動を妨げ、建物への出入を阻止し、変電室前には部品整理箱等の障害物を積み重ね、同月八日から同月末までの間は、同室前に組合員二名を座り込ませて同室の管理責任者である設計課長その他の会社側職員が点検のため入室するのを妨げ、組合側において電源を保持して操業を続行した。

(2) 以上の認定に反する証拠は、採用しない。

(3) 先ず、職場占拠とロツクアウトとの関係について、当裁判所は次の通り考える。ロツクアウトの本旨は、労働者の争議行為に対する対抗手段として、使用者が労務の受領を集団的に拒絶することによつて賃金の支払を免れ、以て自らの負担軽減と労働者への圧迫を図る点にあり、従つてその手段としては、労務受領の集団的拒否の意思を表明するに足りる行為(例えばロツクアウトの通告)がなされることを以て足り、現実に労働者を作業所から閉め出し、又は閉め出すに必要な事実上の行為を伴うことは、必ずしもこれを必要としない。一方、労働者の争議行為は業務阻害を本質とし、それは当然生産手段(その所有権など)の機能減殺を含むものであるから、職場占拠が多少とも使用者の施設管理機能に支障を及ぼすからと云つて、その程度、態様の如何を問わずすべてこれを違法視し、妨害排除請求の対象となるものと解することは、妥当でない。そして、職場占拠が争議行為として違法であるかどうかは、右占拠の場所的範囲、排他性の有無、暴力・破壊等の実力行使の有無、占拠に至る経過等の諸般の事情を考慮して具体的に判定すべきものであり、この場合使用者側のロツクアウトの有無、その適否、態様等も参酌に値する一事情と云うことを妨げないけれども、ロツクアウトの成否を以て右判定の決定的な一契機と解し、ロツクアウト通告の一事により以後の職場占拠が当然違法に変ずるものと考えるのは、相当でない。

(4) 叙上の見地から、前認定の本件職場占拠の適否について考えてみるのに、(i)前記のように労使の主張が鋭く対立して団体交渉の実質的進捗が期待されず、既に組合が再三に亘り会社の警告を無視して就業時間に喰いこむ職場集会を開き、喰い込み時間についてその都度時限ストライキを通告し、或いは後記((三)(1)(イ))のように擅に職場を離れて集団交渉中の多数組合員につきその場で指名ストライキ通告をする等の争議行為を重ねており、将来も同様の争議行為が反復され、会社の生産秩序を著しく阻害することが危惧される状況にあつたものと認められるから、会社が十二月中に行なつた前記ロツクアウト通告がその実施期間の点において組合の通告したストライキ期間を超えるものがあつたとしても、申請人らが主張するように攻撃的なロツクアウトして違法の評価を受けるものではなく、その後に実施されたロツクアウトも、組合の占拠状況と照し合わせて、同様に解される。(ii)一一月二八日、一二月六日前記職場集会に参加した組合員がロツクアウト通告を受けた後も就労の態勢を示して引き続き職場に滞留を続けたこと自体を以て直ちに違法な職場占拠と云えないことは前述の通りであるが、組合側において会社が右ロツクアウト実施のため設けたバリケードを除去し、施錠した鍵を破毀して工場内に侵入し、組合員たる班長の指揮下に機械、材料を擅に使用して操業を強行する等の積極的実力行為に出たことは、争議行為の正当な限界を逸脱したものと云うべく、その態様において違法な職場占拠と認めざるを得ない。(iii)一二月以降組合は主要建物の鍵を擅に保持し、会社側職員の右建物への出入を拘束妨害し、会社の意図を無視して自由に操業し或いは組合員を泊り込ませていた事実に徴すれば、事務所、会議室を除く会社建物、施設は殆んど組合の事実上の支配下に帰し、会社はその使用管理機能を剥奪されていたと認めるのが相当である。かように会社の主要な建物、施設を長期間に亘り排他的に占有することは、使用者に対する施設管理機能の侵奪として争議行為としても許されないところであり、組合の前記職場占拠は、この点に於ても違法と云うべきである。

(三) 会社施設等の損壊

(1) 前出乙第四六号証の二、政重の証言によりいずれも成立を認める乙第四三号証の二、三第四七号証の一ないし三、及び同人の証言を総合すれば、次のとおり認められる。

組合は、一一月一七日の株主総会の前後頃から、会社建物の内外に、ビラ、壁新聞などを一面に多量に貼りつけ、或いは落書を施し、これを剥離した後にも白壁には汚損の痕跡をとどめ、また会社所有の乗用車の車体に「能美労対はどう見ても争議を楽しんでいる!」などと記したビラを多数貼りつけ、正面ガラス窓にマジツクインキをもつて「能美の手先になるな!」と落書した。

(2) 右認定に反する証拠は、採用しない。なお、乗用車のタイヤの空気を抜き、バツクミラーの除去等が組合員によりなされたことについては、これを認めるに足りる的確な疎明がない。

(3) 組合が会社施設にビラ等を貼付する行為は、争議中の宣伝手段として、その場所、数、貼付方法等の如何により一概にこれを違法と言うことはできないけれども、前認定のように剥離後もなお施設に汚損を残すような方法でこれを貼付し、或いは社屋外で常用される乗用車にビラを貼付したり落書を施すことは、宣伝手段としての常軌を逸し、会社の施設管理権とも衝突する違法な争議行為と云うべきである。

(四) 会社業務の妨害

(1) 時間外手当の追給をめぐる紛争経過(以下「時間外手当問題」という。)当事者間に争いのない事実に成立に争いのない乙第八〇号証、第九四号証の一政重の証言によりいずれも成立を認める乙第五一号証の一、二、第七九、第八七、第八九号証、前出乙第一九号証及び政重、麓、小林の証言を総合すれば、次のとおり認められる。会社では従来時間外手当として労働協約の定めに従い基準賃金の三割増を支払つて来たが、昭和三四年頃から賞与を生産手当の名称で毎月分割して前払いし、これを賞与月に精算するという方法をとるようになつたので、時間外手当算出の基礎となる賃金が協約に定める基準賃金を超過することとなり、従つて時間外手当の額も従前より増加する筈であつた。会社は昭和三六年一〇月二六日始めて、組合からこの点を指摘され、所轄労働基準監督署の指導を受けるに及んで、同月三〇日組合に対し昭和三四年一一月に遡つてその追給分を支払うべき旨を回答した。一一月二〇日の団交で、組合は右追給分を一括して組合に支給するよう要求し、会社が労働基準法を楯にしてこれを拒否したところ、翌二一日午後三時頃から組合員が多数事務室に押しかけ、いつせいに、「追給分支給明細書を直ちに作れ」と要求し、翌二二日も同様に推移したが、翌二三日組合は会社に対し組合を窓口にして右追給分を組合に一括支給すること及び各組合員毎の支給明細を直ちに組合に通知することを申し入れた。これに対し会社が、申入の前者については従来の回答を固執し、後者については、労力の点から直ちに応ずることは出来ない旨回答したところ、同日午後六時三〇分頃から組合員三七名位が会議室に押しかけ、政重人事課長に対し個人別明細書の即刻作成を約一時間に亘つて要求し、その結果同課長より取りあえず四名分の明細書のメモを示すとの回答を得て引揚げた。翌二四日午前九時二〇分頃申請人古市、石川は(一)組合に一括支払うこと、(二)支払日を明らかにすること、(三)支払明細表を組合に交付すること、(四)追給分の明細は一一月分給料と別個に示すこと等を要求し、会社は(一)及び(三)については従来と同様、(二)については翌二五日支給を目途に計算書を完成を急いでいること、(四)については了承する旨の回答を行つた。ところが、午前一〇時の作業休憩時間になるや、申請人古市、木村、森、中村らは青年行動隊員を主とする組合員約三〇数名と共に事務室(約二〇坪)に押しかけ、政重課長を取りまいて口々に「追給分を組合に払え」「明細書を直ちに各人に知らせ」と迫つたので、政重は、業務の停滞するのを恐れ、隣室の会議室(約一〇坪)に場所を移して支給明細作成の程度等について説明を行つたが組合員は納得しなかつた。やがて一〇時一〇分休憩時間が終了したので、政重が職場復帰を促したところ、組合員らは「ストの形をとる」と云つてその場に坐り込み、マイクを使用するなどして大声で労働歌を斉唱し、間もなく組合より会社にあて「一一月二四日午前一〇時一〇分以降の事態に対する組合の処置について」と題する書面で、坐り込みに参加した組合員三五名を指名してストライキに入る旨通告した。こうして坐り込みを継続し午後三時の休憩時間になると、坐り込み中の組合員に他の多数の組合員が加わつて再び政重を取り囲んで午前と同様の要求を繰返えし説明を求めたため、同人は、やむなく再度会議室において同様の説明を行つたが、組合員は、これを承服せず、同人の背後の扉を閉めて出られないようにし口々に同人の非難を繰返した。午後三時一〇分の就業時間になり政重から職場復帰を求められると、組合員らは「指名ストに入る。」と述べて引続き同人に詰めより、午後四時以後には、職場に残留していた組合員もこれに参加した。午後四時三〇分頃会社側職員が機を見て背後の扉を開けて誘導したので、政重はようやく事務室へ逃れることが出来た。ところが、午後六時三〇分頃申請人ら全員を含む組合員約六〇名が突如事務室になだれ込み、執務中の能美、麓、小林、政重ら会社側職員を取囲んで約一時間に亘つて罵詈雑言を浴びせて喧騒を極め、その間右職員が同室から出られないように出入口の扉の前に組合員らが立塞つていた。

(2) 生理休暇に対する賃金カツトをめぐる紛争経過(以下「生理休暇問題」という。)当事者間に争いがない事実に前出甲第三号証、成立に争いのない乙第一〇号証並びに能美、麓、政重、小林の証言、新島さかえ本人の供述を総合すると、次の事が認められる。〔昭和三六年三月一日、会社と組合間で締結された「諸規定の改正に関する協定並びに附属了解事項」の六、「労働協約及び協定に関する附属了解事項」の(九)「平和義務と紛争の処理について」の項の(2)は「争議行為中の組合員の年次有給休暇(括弧内省略)及び生理休暇は認めない。」と規定し〕、同七、「附帯確認事項」の(二)には、「協約三三条八項の女子従業員の生理休暇に関しいやしくもそれに便乗流用するようなことのないよう、その存在の意味とその使用について正しく指導する様組合も協力する。」と記載されており、労働協約の右条項には、女子に対し生理期間三日の休暇を与える旨規定されている。ところで、一二月三日賃金支払に当つて、組合側は一一月二八日から三〇日までのストライキ期間中、生理休暇をとつた組合員一三名の賃金がカツトされていることを発見し、翌六日婦人部が中心になつて「スト中の女子の生理休暇に対し賃金を払え」と要求し、以後会社側と押し問答を繰返していたが、

(イ) 一二月二七日午前一〇時頃組合の申入れにより能美、政重らが応接室(三坪)において申請人古市、森、木村、中村及び新島さかえらに上記問題についての会社側の見解を説明していたところ、二〇ないし三〇名の女子組合員が同室へ押しかけて来て、会社側の解釈が一方的であると称して右申請人らと共に騒ぎ立て、就業時間になつてもその場を立ち去らず坐り込んだ。会社側は、組合代表者との交渉を提案したが、組合員らは「生理休暇の賃金を補償せよ。」と迫るだけで埓が明かないので、引続き、一一時三〇分頃まで、極力前記了解事項の説明を試みた。しかし組合側はこれに納得せず、前記申請人らの指揮の下に午後三時四〇分頃まで或いはメガホンを持ち、能美、政重らの耳もとで大声で労働歌を歌い、或いは物指で同人らの前にある机や椅子を叩き、或いは罵詈雑言を浴びせるなどして喧噪を極めた。その間能美らは同室の出入口に多数組合員が詰めかけているため、出るに出られず、午後四時近く能美は組合側の監視つきで用便に立つた隙にようやくその場を逃れることが出来た。

(ロ) 同月二九日午前九時頃申請人古市、木村、新島さかえに女子組合員約三〇名が加わつて事務室に入り込み政重課長を取り囲んで生理休暇問題について抗議をし始めたので、政重は場所を会議室に移し、二七日と同様の説明を繰返したが、一〇時頃には、女子組合員の殆んど全員が会議室に詰めかけ、政重を罵り、雑言を浴びせ、放歌したりした。一二時過頃から、能美が来室して更に説明を続けたが、組合員は一向に承服せず、同室の出入口の鍵をかけ、午後一時三〇分頃までスト中の生理休暇に対する賃金カツトの不法を頑なに主張し続けたあげく、「よし、もういいだろう。」という申請人木村の合図により組合員は出口を開放してようやく能美らを退出させた。しかし、能美らが事務室に帰ると間もなく、会議室に居た組合員ら約七〇名が全員事務室へ雪崩れ込み、そこに居合わせた小林工場長が更に前記の問題について約三〇分間説明を加えその場を静めようとしたが、組合員は依然聞き入れず、前記申請人らと共に、午後四時頃までメガホンをもつて怒鳴つたり、放歌したりして騒いだ。

(3) 以上の認定に反する証拠は、採用しない。

(4)(イ) 時間外手当問題について考えるのに、組合ないし組合員として時間外手当の追給の計算及びその支給額について多大の関心を有し、右の点に関連して会社に要求を提出しその交渉を求めること自体は何ら責むべきことでなく、むしろ当然のことと云える。しかし組合側の要求事項のうち、一括して組合に支払を求める点は、労働基準法二四条の賃金直接払いの解釈上疑義がないとは云えないし、支給明細書の即時交付を求める点は、会社の給与担当人員と作業量とを対比してその早急な作成が困難であつたことを疎明上窺うに足り、右二点に対する会社の回答を何ら理由なく組合の申入れを拒否したものと非難するのは当らない。かような会社の回答があつて程なく、申請人らを含む組合員が前記のように事務室、会議室において就業時間中、能美、政重ら会社職員の執務妨害に亘る行動に及んだものであり、右行動が会社の業務命令に反し、職場秩序紊乱に当ることは、明らかである。もつとも、休憩時間が終了した際、会社側から職場復帰を促されるや、会議室にいた組合員は「ストの形をとる。」と云つてその場に坐り込み、間もなく組合は右組合員全員を指名してストライキに入る旨を通告しているが、右指名ストライキは、専ら就業時間における職場離脱による就業規則ないし業務命令違反の事態を回避し、当該組合員らの責任を免れることを目的とするものと云うほかはなく、争議行為が本来労働者の労働条件の改善を主目的として経済的弱者である労働者保護のために権利として法認された結果、これによつて通常発生する使用者の業務阻害及び労働義務不履行について、労働者を免責するものである趣旨に鑑みれば、前示の指名ストライキは、その目的において本末を顛倒したものというべく、使用者に対し、かかる争議行為まで受忍を強いる謂われはなく、結局、右指名ストライキは、既にその目的において争議権の濫用として許されないと解するのが相当である。のみならず、仮にストライキ中の者であるにせよ、前認定のように多衆の威力を示して会社側職制の自由を相当時間に亘り事実上拘束し、罵言を浴びせる等のいわゆる吊し上げ的言動は、組合活動としても許されないところである。

(ロ) 次に、生理休暇問題について検討するのに、前示労働協約の附属了解事項によれば、「争議行為中の組合員の生理休暇は認めない。」と規定されているのであるから、ストライキ中の当該組合員から生理休暇の申出があつても、会社がストライキに見合う賃金カツトに当り、これを生理休暇として扱い当日分をカツト額から控除すべき義務がないことは、解釈上明らかと云つてよい。尤も、新島さかえの供述によれば、昭和三六年の春斗の頃、半日ストに当つて生理休暇を取つた組合員二名位に対し賃金カツトが実施されなかつた事例があることが認められるけれども、同年秋以降同様の事例は存在せず、右事例だけでは生理休暇を届出た者に賃金カツトを行わない慣行が存在したということは出来ない。ただ、前示規定には、争議行為中の組合員の年次有給休暇については、「争議予告前から既に継続して行使中のもの又帰郷等やむを得ない事情と認める場合を除く。」との留保を附しており、組合側は、この留保条項が生理休暇の場合にも及ぶとの解釈をとつていたことが認められるけれども、もし右規定の解釈上に疑義があれば、先ず労働協約に定める労使協議会においてこれを糺す等の方途を講ずるのが相当であり、一歩譲つて組合側の解釈が正当のものと仮定しても、一二月二七、二九の両日における前認定の組合員らの言動が時間外手当問題のそれにつき(イ)に判示したと同様の意味において、違法の評価を受けることを免れない。

(五) 出荷阻止

(1) 政重の証言により成立を認める乙第四八号証の一ない一一、第五二号証の五、六、第五五号証、麓の証言により成立を認める乙第八四号証並びに政重、小林、麓の証言を総合すれば、次のように認められる。

(イ) 一二月九日午前一一時頃会社が得意先である広島電業の注文により、非組合員をもつてU2型製品五個を搬出しようとしたところ、申請人古市、中江は、組合員約二〇名を玄関に集めてスクラムを組み、玄関の門扉を閉鎖し、約二〇分間もみ合うなどの実力をもつて、その搬出を阻止した。

(ロ) 二月八日午後一時頃、藤原営業課長、渡辺倉庫課長が倉庫から製品の一部を持出そうとしたところ、申請人中江、森らが出入口に立塞り、「絶対に出させないぞ。」といつて自ら右製品を取上げて倉庫内に戻し、その持出を阻止した。

(ハ) 同月一〇日午前一〇時頃藤原営業課長が、同様製品の一部を搬出しようとしたところ、申請人古市、中江らが同課長の身辺につきまとつて妨害し出荷を断念させた。

(2) 以上の認定に反する証拠は採用しない。なお、二月八日午前の出荷阻止行為については、疎明がない。

(3) 争議中に、使用者が在庫製品の出荷その他の営業活動を自由に行なえるとすれば、労働者側にとつて争議上好ましくないことは見易いところであるが、いわゆる平和的説得の範囲を越え、実力を行使して使用者の出荷を阻止することは、争議行為としても許されないのを本則とする。これを本件についてみると、組合員がスクラムを組み、玄関の扉を閉鎖し、或いは会社側職員から製品を取上げ、又はその身辺につきまとつて出荷を断念させる等の実力的な方法によつて会社の出荷を阻止した上記(1)の行為は、違法な争議行為と云うべきである。

三、以上に検討したところによれば、上記二2(一)ないし(五)において違法と判示した組合ないし組合員の行為は、上記一で述べた申請人らの組合における地位から見て、それぞれ組合執行委員又は斗争委員であつた期間中、申請人らにおいてその企画、決定、指導に当つたものと認めるのが相当であり、右行為中自ら実行に参加したものもあることは前認定のとおりである。右行為が会社にとつて生産阻害、業務秩序の混乱を招くものであることは明らかであり、申請人らが右行為を企画、決定、指導、実行した点は、労働基準法二〇条に云う「労働者の責に帰すべき事由」に該当すると云わざるを得ない。

〔四〕  申請人らの不当労働行為の主張について

一、申請人らの組合活動

争いない事実に成立に争いのない甲第九二号証の一ないし五、第一〇二ないし第一〇七号証、新島、古市、石川、中村、中江、新島さかえ各本人の供述を総合すると、次のとおり認められる。

〔会社においては、昭和二一年頃労働組合が結成され上部団体である全日本電機工業労働組合に加盟したが、〕昭和三一年頃までは組合意識も低調でさして活溌な組合活動も行われなかつた。昭和三二年一〇月申請人新島、石川、中村らが執行委員に選任されてから以後昭和三六年春に至る間会社との活溌な交渉により、年四回の報奨金制度を年二回の一時金制度に改め、定期昇給を年一回としてその昇給率を高め、諸手当の増額、年次有給休暇日数の増加、停年の延長その他の労働条件の改善を実現するなど組合活動は漸次積極的になつた。〔同年夏頃以後は別表のとおり申請人らが組合役員に就任し〕昭和三七年春季斗争など本件争議前から申請人ら全員が、組合活動の中心的役割を果して来た。

二、会社の組合に対する態度

1 組合誹謗による介入の主張について

会社は本件争議期間中、社内報「国光ジヤーナル」一〇月上旬号に「労働協約改訂に関する交渉過程について」と題する記事、同一〇月下旬号に組合の労働協約改訂案を批評して「組合は、非組合員たる課長、部長の人事までも組合と協議することを要求するものであり、これは、組合が社内人事に首を突込むような非常識な協約案、共産主義化するのに役立つような協約案である」と記載した能美総務部長名義の記事、同一一月上旬号に「組合幹部は、昭和三六年の賃上交渉で無知をさらけ出した」「組合幹部は、ストライキの事は詳しいかも知れぬが、物を生産することは弱いようだ」「若い人達は、事の重大さを知らないで、ストライキをスポーツだと思つて楽しんでいることがあるらしい」と記載した桜井社長名義の記事、一一月四日付社内速報第四号に、「従業員の首を締める者はだれか」と題し「組合幹部は、団結の掛声で従業員を飢餓に追い込もうとしている」と記載した能美部長名義の記事、同月八日付同第五号に「争いは避けたい」と題し「組合幹部がストをやろうとしているのはどう云うわけだろう。答は簡単である。それは、このままでは組合幹部の顔が立たないからである」と記載した同部長名義の記事、同月二一日付同第六号に「組合幹部の知能年令が幼い」と記載した同部長名義の記事を掲載したほか、二月一三日付、「従事員御家庭の皆様え」と題し「組合幹部は、もう会社の発展も従業員の生活の安定も考えていようとは思われません」「彼らは、従業員の幸福のためにではなく、斗争を地域に拡大し政治斗争に転化させ、長期化させるように仕向けています」と記載したパンフレツトを組合員ら従業員の家族に配布した。また、桜井社長は、社内放送をもつて、一一月二九、三〇日の両日、「組合幹部は、手がなくなつてしまつたので、この寒空に、組合員に顔から火が出るような思いをさせるチンドン屋の真似をさせようとしている」と、又一二月九日「組合は、高い利子で金を借り、政治斗争をしようとしている」と発言した。

成立に争いがない甲第一七、第二〇ないし第二二、第七〇ないし第七二号証、第一一六号証の一、二によつて前記文書や放送内容を仔細に検討すると、措辞において上記に類する揶揄的或いは挑発的と思われる個所は他にも若干見受けられないではないが、前後の脈絡を辿れば、右文書や発言は、本件争議におけるさきに認定したような組合の激しい斗争態度や文書活動に対する対抗手段として、会社側の主張の正当性、ひいては組合側の主張の不当性を従業員やその家族に強調宣伝する趣旨のものであることを了解するに難くない。即ち、組合や組合幹部に対する批判的言辞に誇張に亘り穏当を欠く点は認められるけれども、殊更事実を誣いたと認められるふしはないし、本件争議における組合の前記斗争態度や争議中労使双方の間において激しい文書合戦が行われるのを常態とするわが国の実情をも考慮すれば、会社の右文書、言論活動をもつて、直ちに組合に対する誹謗ないし違法な介入行為と断ずるのは、相当でない。

尤も、会社側の上記文書や放送が組合側の会社に対する不信と警戒心をかき立て、本件争議の混乱と長期化を助長する一因となつたことは否めないし、それらの内容、表現から推して、会社が申請人ら組合幹部に対し不信と嫌悪の念を抱いていたことは、これを認めるに難くない。

2 組合員に対する組合脱退策謀の主張について

(一) 「千山閣グループ」関係

(1) 争いない事実に桜井本人の供述及びこれにより成立を認める乙第七六号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第七四ないし第七七号証を総合すれば、次のとおり認められる。

〔会社は昭和三七年二月二日桜井社長は、いずれも組合員である浜源吾(組立班々長)能登与五郎(同班次長)、大越錦蔵(配電函班々長)山四龍助(プレス班々長)島崎忠夫(型班々長)北原米雄(マグネツト班々長)吉田静英(設備係長)庭野繁広(検査係)ら八名と都内台東区七軒町所在の料理屋「千山閣」で会合し、その直後に右八名は組合を脱退した。〕ところで、会社では従前から製造部門の各班長らと社長とが週二回定期的に会合を開いていたが、班長も組合員であるため、本件争議に入つてから以後長い間右会合が途絶し、班長らは社長とぢかに接触する機会がなかつた。当時組合内にも争議の経過に照らし執行部の指導方針に不安や疑問を抱く者が少からず生じ、前記八名もそのような気持から会社側の労務その他経営方針につき社長の真意を確かめたいと考え、浜、吉田両名から社長に会合を申入れた結果、「千山閣」での会合が開かれるに至つたものである。右八名のうち浜は翌三日同人の班の組合員小早川登代、能登は同月四日同じく竹内美代子、井上は組合員小川豊作をそれぞれ家に訪ね、島崎は同月五日同人の班の組合員平沢賢一郎に面接して、組合脱退を勧誘した。〔その頃申請人らの主張する青木ら一〇数名の組合員が組合を脱退した。〕

(2) 右認定に反する証拠は採用しない。なお、「千山閣」の会合において桜井社長が酒食を供して組合脱退を勧誘したこと、上記浜ら四名による組合脱退、勧誘が会社と意を通じてなされたものであること、申請人らの主張するその他の「千山閣グループ」による右勧誘行為については、これを確認できる疎明がない。

(二) 「栄屋グループ」関係

(1) 争いない事実に、弁論の全趣旨により成立を認める甲第五一号証の一、二、第七八ないし第八〇号証、乙第六六号証及び小林の証言を総合すれば、次のとおり認められる。

〔会社の小林工場長、加藤経理課長は、昭和三七年一月三一日午前一一時頃会社近隣のそば屋「栄屋」で、倉庫班の組合員工藤市衛、豊島喜三郎、香取義豊、石川よしえ、会田武七、松尾恵一郎、永森正道、山崎春次、田中甚蔵、市川徳治、岩瀬尚弘らと会合した。翌二月一日右のうち岩瀬、松尾を除く一〇名が、会社に就業願及び組合脱退届を提出した。なお、その後近藤俊夫、清水新吉、福田経子、岩崎輝子らが組合を脱退した。〕ところで上記工藤ら倉庫班の組合員一二名は、右会合当日の朝組合大会終了後型班の作業現場に集合し、引続き「栄屋」に場所を移して組合執行部の行動を批判検討した結果、組合の争議方針に同調できないとし、この際会社側の言い分と今後の方針を聴取した上で組合に対する態度を決しようと考え、加藤を通じて小林工場長を「栄屋」に招いたもので、同人らは、その席上交々組合を脱退して就労したい旨述べ、前記のとおり翌二月一日岩瀬、松尾を除く一〇名が会社下谷営業所に出向き、平沼生産課長に連名の組合脱退届を提出した。なお、右一〇名のうち、工藤は三月四日山本儀雄に、会田は、二月中甥の近藤俊夫に、田中は息子志郎及び清水新吉に、福田は妻経子及びその友人岩崎輝子に、それぞれ組合脱退を勧誘した。

(2) 右認定に反する証拠は、採用しない。なお、小林、加藤が、「栄屋グループ」の者を指図して組合員の脱退を勧誘させたことを認めるに足りる疎明はない。

(三) その他の職制関係

前出甲七七号証、いずれも弁論の全趣旨により成立を認める甲第八一、第八二号証、乙第七三号証を総合すれば、島崎が二月五日、平沢賢一郎に会つて、組合脱退を奨めた際(上記(一)(1))、平沼課長が一緒にいたこと、藤原営業課長は、同月一三日組合員佐藤泰蔵の予ねての求めにより、同人と飲食店「八重」で会つて一身上の苦況について聞かされたこと、同月二六日頃組合脱退者鎌田勝が杉村喜美子に組合脱退を勧め、その場に藤原課長も居合わせたこと、前記岩崎(上記(二)(1))が、三月四日水野美智子に組合脱退を勧めたことを認めることができるが、それが会社側の指図に基づくものであることを確認するに足りる疎明は存しない。

(四) 以上に認定した事実に徴すれば、前判示の通り一月二二日労働協約が失効し、労使間の対立は深まるばかりで解決を期待し難い泥沼斗争の様相を呈していたので、申請人ら組合幹部の斗争方針について組合内に自ら批判勢力が抬頭し、上記「千山閣グループ」「栄屋グループ」の行動はその顕われと見られるもので、会社側において右行動を歓迎し、激励したことは推察できるけれども、会社において積極的に組合の切崩しを試みたと認めるにはその疎明において欠けるところがあり、組合員の脱退が不当労働行為と目される会社の介入行為によるものと断ずることは困難である。

三、以上、申請人らの不当労働行為の主張について検討した結果を、上記〔三〕において判示した会社の解雇事由の相当性に照らして見れば、会社において申請人ら及びその組合活動を嫌悪していたことは窺われるけれども、会社をして申請人らの解雇を決断させるに至つた支配的理由は〔三〕で認定した違法な組合活動の点にあつたものと推察されるから、右解雇が不当労働行為で無効であるとの申請人らの主張は採用できない。

〔五〕  申請人らの解雇権濫用の主張について。

叙上判示したところによれば会社の申請人らに対する解雇は理由があり、他に解雇権の濫用を肯定するに足る特段の主張も疎明もないから、右主張は理由がない。

第三、結論

よつて、申請人らに対する本件解雇は有効と云うべく、申請人らの主張は理由がないので、本件申請を却下することとし、申請費用の負担については、民事訴訟法八九条、九三条一項本文に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 橘喬 吉田良正 三枝信義)

(別表省略)

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